〇〇しないと出られない部屋（九条貴利矢） ページ23
「どちらかが相手を泣かせないと出られない部屋、だってさ」
「いや、だってさ。じゃなくて……」
四方八方を白く塗り立てられた壁、そして天井。真ん中に置かれた白い二つの椅子とテーブル以外なんの備品も無いその部屋の真ん中で、貴利矢と零子は佇んでいた。ここは、テーマパークのアトラクションの一つだ。折角のオフだからデートがしたいと駄々をこねる貴利矢に連れられやってきた零子は、期間限定で設置されていたこの「〇〇しないと出られない部屋」を密かに楽しみにしており。テーマパークに着くなり早速このアトラクションを試しに来たのだが。何せお題がお題だ。二人はこのお題が書かれた紙を眺めつつ戸惑っていた。このアトラクションは最新技術により"スタッフがこの部屋に入った客を監視してクリアを判断する"のではなく、お題によって各部屋内のセンサーが条件をクリアしたことを感知し、その判断を人工知能によってさせるというものだ。まだ殆ど試作品に近い状態らしい為、たまにバグが発生するそうだが、その場合は紙に書かれた制限時間を過ぎれば自動的に扉が開くため、安全上は問題無い。クリア失敗にはなるが、代わりにほぼ待ち時間無しでもう一度入る事ができたり、他の有料アトラクションの無料券がもらえたりするようで、今のところは人気のアトラクションだ。他人の目が無く、お題によってはいちゃつける為か、特にカップルに人気だと言う。ちなみに、クリアして出てきた場合はパーク内で使える食券を。クリアを失敗して時間切れになった場合は、スタッフによって顔に落書きされるらしい。ただし、バグかどうかなどは自己申告制な為、その辺のルールはガバガバだ。しかし、顔への落書きを面白がる人が多い為か、クリアを失敗しても割と皆正直に言うようである。
貴利矢と零子はお題の書かれた紙をそっとテーブルに置くと。二人揃って頭を抱えた。
「あー！もう！キスしないと出られないとかそういうのだと思ってたのに！」
「なんだよ泣かせるって！無理ゲーすぎんだろこんなの！あたしが貴利矢を泣かせられるわけねぇだろ！しかも制限時間四十分って……！無理だ、無理に決まってる……」
「っていうか零子、自分を泣かせる気なわけ？」
「当たり前だろ。どう考えてもお前の方が適任だし」
「はぁー？そういうこと言っちゃうー？まぁでも確かに、好きな女は泣かせらんないよね〜」
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2019年6月15日 15時
