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骨(石動惣一) ページ3

※新世界

「へぇ、今どき夜のシャッター通りで漫才の練習する人とか居るんですね」

 nascitaの皆も寝静まった夜。店に泊まりに来ていた季実子の「眠れない」という我儘によって、惣一と彼女は夜の散歩へと洒落込んでいた。時刻はとうに日付を越えており、東京と言えども都心を外れた商店街では、全ての店のシャッターが閉められている。そしてそのシャッターに向かって漫才の練習をする二人の若者を横目で見つつ、季実子は前(さき)の言葉を呟いたのだった。

「なんか、青春って感じでいいなぁ」

惣一はそう言いつつ、彼らを見ているようで、何処か遠くを見るような目をしてフッと笑う。青春を語るには年を取りすぎてしまった。とでも言いたげな表情だ。

「わたしも事務所がビル一棟を買い取るまで、スタジオが借りられない時は公園とか夜の人が少ない時間帯に皆で集まって練習してたなぁ」
「それが今や人気絶頂アイドルだもんな。初めてnascitaに来た時と比べたら考えられないよ」

有名人となった今、こうして男と二人で歩く事は昼間であればとんでもないことである。夜中でも、すれ違う人がいれば顔を背けてしまうのは、一つの職業病と言ってもいいだろう。惣一も、それを意識してかあまり彼女にくっつかないよう距離を置いている。そもそも二人はお互いを意識してはいるものの、恋人同士というわけではないのでこの距離でも充分なのだが。夜も深いせいか少し積極的な部分が顔を出してしまう。季実子は、何でもないように辺りを見渡しながら、左手を惣一の方へと近づけた。そして、適当に世間話を続けて惣一の右手がありそうなところを手の感覚を使って探す。彼女の左手はなんども空を切るが、商店街の終わりに差し掛かると、漸くその手は何かに当たった。

「えっ?」

布のような触り心地に、彼女は触れたのが彼の手でないことを察する。慌てて彼の方を振り向けば、季実子は自身の手が彼の尻に触れていることに気づいた。

「えー……。これはえっちー!って叫んだほうがいいの?」
「……!ごごごご、ごめんなさい、違うんです!違うんです!!」

激しく狼狽する季実子。弁解する声は思わず大きくなり商店街中に響き渡る。そしてその姿は、角を曲がってこちらへと歩いてくる飲み会帰りらしき女性三人組に目撃されてしまった。

「あれ、あの子見たことあるくない?」
「ほんとだ……。誰だっけ」
「あれだよ!マカロンズの!」
「きゃーほんとだー!」

・→←とある一日(九条貴利矢)



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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年6月15日 15時

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