・ ページ35
「あ、やば。戦兎、さっき図書室で返そうと思ってた本返すの忘れてた。ちょっと行ってくる」
「美空はそういうとこ抜けてるよな」
「戦兎！」
「しー……」
人差し指を口に宛て、眠る季実子を指差す戦兎に美空は呆れ返ったように小さく「もうっ」と言いながら持っていた本で戦兎の頭を小突く。そして図書室が閉まる前にと急いで部屋を出て行く美空を見送ると、戦兎は季実子の隣に突っ伏し、その寝顔を眺め始めた。
「そんな無防備な寝顔してると、襲われちゃうぞ」
勿論返事は無い。ただただ寝息が聞こえてくるだけである。そっと丸い頬に指を這わせ、ゆっくり撫でれば。季実子は擽ったいのか少し身動ぎした。
思えば眠っている季実子にこんなに接近するのは初めてだ。記憶を辿るが、やはりこれが初めてであると戦兎は結論付ける。今までも季実子を此処へ迎えに来る度、寝ている姿自体はよく見ていた。しかし、必ず惣一が居た為、こうして横でじっくり見るという事が無かったのである。初めて間近で見る彼女の寝顔に、戦兎は少し破顔した。まるでまだ小さな子供のような季実子。その癖どこか陰があり、眠っている今も儚さを思わせる。不思議な子だ。更に彼女を幼く見せるツインテールを指先でかき上げる。すると、横髪とツインテールに隠れていた耳が覗き、彼は季実子を起こさぬよう耳元に唇を寄せ、小さく呟いた。
「季実子……」
──刹那。殆ど身動き一つしなかった季実子が勢いよく起き上がり、彼女は振り向きざまに戦兎の顔を思い切り手で払う。
「っ……！！や、やだっ……」
掠れ、殆ど声になっていない声で戦兎を拒否し、滅茶苦茶に手を振り回して椅子を倒しながら彼を遠ざける。起きて彼に気づき拒否しているのかと思った戦兎だったが、どうやら違うようだ。その身体はふらつき、寝ぼけているようにさえ思える。戦兎はとにかく季実子を落ち着かせようと彼女の両手を捕まえると、しっかりと自分の顔を見せて叫んだ。
「季実子！俺だよ、俺！」
「ぁ……！せ、先輩……？」
漸く季実子と目が合う。やはり戦兎を夢の中の誰かと間違えていたようだ。季実子は自分の目の前にいるのが彼だと分かると、フッと体の力を抜き。その場にしゃがみ膝に顔を埋めた。
「すみません……」
「いや、俺こそごめん。ちょっとした悪戯のつもりが……」
戦兎も季実子の前にしゃがみ込み、彼女の頭に手を乗せる。顔を少し上げた彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サインバルタ(プロフ) - 雪華さん» ちょっと存じ上げませんね… (2020年7月22日 21時) (
レス) id: 4afdb47c62 (このIDを非表示/違反報告)
雪華 - トランスフォーマープライムは知っています？ (2020年7月22日 16時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
サインバルタ(プロフ) - 横峯俊さん» わ〜（泣）ありがとうございます…！生憎只今一旦全て消して書き直ししているところですが、もっと良いものを書けるよう頑張りますので今後ともよろしくおねがいします…！惣一貴利矢さん推し見つけられて滅茶苦茶嬉しいです…！ (2020年1月26日 18時) (レス) id: 4afdb47c62 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらっています！惣一さんも貴利矢先生も小説が少ないので、毎回楽しみにしています！ (2020年1月25日 9時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サインバルタ | 作成日時：2018年12月21日 5時
