五月九日【秘密の輪】 ページ1
頭に伝わる不快な振動に目を覚ます。時刻は早朝四時。ちゃんとアラーム通りに起きられたようだ。普段から長い時間眠れることがあまり無く、日付が変わる前に眠れたこともあり、大した時間ではないのに長時間寝たような気さえする。嫌な習慣が身についてしまったと自嘲して目線を少し逸らすと、そこには未だぐっすりと眠る先生の姿があった。見張りの交代が何度かあったのだろうか、荷物には没収品であろう携帯ゲーム機がいくつか乗っている。
「先生、お疲れ様です」
疲れきった寝顔を指先で撫でると、くすぐったかったのか、先生は寝惚けたままわたしの手を掴んだ。昨夜と同じ感触に頬が緩む。何か夢でも見ているのだろうか。声を殺して笑い、少し和んだその時。
「っ！？」
先生が強い力でわたしの手を引っ張ったかと思うと、わたしを布団の中に引き込んだ。突然の事に混乱するが、顔を上げれば至近距離に先生の顔があること、体が完全に密着していることに気づき、わたしは更に頭を掻き乱される。
「せ、せんせ……！」
「美空……」
が、予想外の言葉にわたしの脳は完全に思考停止した。
「は？」
「はやくねないと、ねぼうするぞ……」
どうやら先生はわたしを美空ちゃんだと思っているらしい。
「美空が寝坊して、九里先生に怒られるのはお父さんなんだから……」
「っ……！くく、ふふふっ」
九里先生といえば、美空ちゃんが小学二年生だった時の担任の先生だ。わたしも一度担任になった年があったが、とても怖い先生で。保護者からも恐れられていたおばあちゃん先生だった。ということはつまり、今先生の腕の中に居るわたしを、先生は小学二年生の美空ちゃんだと思っているということで。わたしは可笑しくて先生の胸に顔を埋めながら笑い続けた。小さいと自負するわたしでも、そこまでは小さくないと思うのだけれど。
やがて目が覚めたらしい先生が、寝ぼけ眼のままわたしの感触を確かめているのが分かった。まだ状況がよく分かっていないのだろう。そんな彼の為に顔を上げて「おはようございます」と言うと、先生は一気に頭を覚醒させ、寝起きとは思えない程のスピードでわたしから離れた。
「さ、西城お前！な、なんてことを……！」
「やだなぁ、わたしじゃありませんよ。布団の中に引き込んだのは先生ですし」
「う、嘘だね！俺がそんな事するはず……」
「先生、美空ちゃんが小さい時の夢見てたでしょ？」
「……！言われてみれば、そんな覚えが……」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サインバルタ(プロフ) - 雪華さん» ちょっと存じ上げませんね… (2020年7月22日 21時) (
レス) id: 4afdb47c62 (このIDを非表示/違反報告)
雪華 - トランスフォーマープライムは知っています？ (2020年7月22日 16時) (レス) id: 1286db9797 (このIDを非表示/違反報告)
サインバルタ(プロフ) - 横峯俊さん» わ〜（泣）ありがとうございます…！生憎只今一旦全て消して書き直ししているところですが、もっと良いものを書けるよう頑張りますので今後ともよろしくおねがいします…！惣一貴利矢さん推し見つけられて滅茶苦茶嬉しいです…！ (2020年1月26日 18時) (レス) id: 4afdb47c62 (このIDを非表示/違反報告)
横峯俊(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらっています！惣一さんも貴利矢先生も小説が少ないので、毎回楽しみにしています！ (2020年1月25日 9時) (レス) id: e7388357bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サインバルタ | 作成日時：2018年12月21日 5時
