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「いっつも先生の事見てる癖に、気づかないんだな」
「何がですか？」
「必死に季実子ちゃんの方を見ないようにしてるのに気づかないわけ？」
「……先生が動揺してるって言いたいんですか？」
「そうじゃなかったら何？」
自分と季実子ちゃんは似ている。好きな相手に対して必死なところも、狡猾でこのように周囲を休みなく把握しようとするところも。だが、そんな季実子ちゃんにも自分と決定的に似ていないところがあった。それは、好きな相手からの好意に気づいていないところと、その人からの愛情を信じることができないところだ。自分も全面的に零子からの気持ちを信じているわけじゃないが、季実子ちゃんはそれが顕著で。石動先生からの愛情をかなり低く見積っているような様子が見て取れる。家庭環境が複雑なようだし、そのせいなのかもしれない。
「ちょっと押せば堕ちそうだし。ま、頑張って」
季実子ちゃんは釈然としないような顔で首を傾げた後、ゆっくりと石動先生の方を見遣った。焦る必要は無いけど、この二人の進展は近い内に来そうだ。
「おっしゃあ！早速行くぞー！」
「おー！」
季実子ちゃんと石動先生を観察していると、パーカーやらを脱いで開放的な気分になったらしい万丈くん、明日那ちゃん、美空ちゃん、零子の四人が一目散に海へと走って行く。元気な奴らだ。取り残された自分達は顔を見合わせて、ゆっくりと海へ向かった。
自分達が辿り着いた頃には、零子達は膝まで海に浸かり、何かを投げて遊んでいた。何かと思いまじまじと見てみれば──砂か？海に手を突っ込み、砂を掴んで投げ合っているらしい。皆上半身に砂が付きまくっている。でもなんで砂なんだ。
「何がどーなってこんなことになってるわけ？」
「どうせ龍我くんでしょ」
この様子には季実子ちゃんも呆れ返って脱力していた。そんな季実子ちゃんに、美空ちゃんがばしゃばしゃと水を掻き分けながら駆け寄り抱きつく。
「万丈が虐める」
「やっぱり！うちの娘を虐めるなんて！！」
「西城の娘じゃないけど」
素早くツッコむ石動先生をよそに、美空ちゃんと季実子ちゃんは海に手を突っ込み、砂を鷲掴みにして万丈くんに向かって思い切り投げた。なるほど、さっきもきっとこんな感じで始まったんだろうな。誰が発端であったかは別として。ヒートアップする季実子ちゃんと美空ちゃん。それに反撃する万丈くん。面白がって一緒にわかめなどを投げる零子と明日那ちゃん。
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2020年11月6日 10時
