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含みのある言い方だ。ちらりとバックミラーを見れば、戦兎は思った通り不敵に笑いながらこちらに視線をくれたあと、西城を見遣った。なるほど。甘いのって、あぁ、そういう。
「それはお前だろ」
別に図星という訳でもないのに悔しくて、思わず言い返してしまった。まるで俺の方がガキみたいじゃないか。これ以上戦兎には絡まない方がいい。そう考え助けを求めるようにして窓の外を見ると、九条が一人で戻ってくる姿が見えた。助かった。そう思ったのも束の間、九条は扉を開け車に乗り込むと、いつもの様に「たっだいま〜」と間延びした声で言いつつ、ドサリと腰を下ろして黙り込んでいた。なんだか異様な空気だ。なんでもないような顔をしているが、どこか怒っているかのような、そんな雰囲気を醸し出している。戦兎もそれに気づいたようで、すぐさま九条に話しかけた。
「どうかした？っつーか、音無さんは？」
「……さぁ。一瞬目を離したスキにどっか行ったと思ったら万丈くんと仲良くたこ焼き食べてたことなんて知らねーよ」
「知ってんじゃん。なんでいつもみたいに奪って来なかったわけ？」
戦兎の言葉に心の中で頷く。九条はいつだってフラフラした音無を引っ張っているような印象が強かった。それだけに、今の「知らない」なんて態度は意外だったのだ。それにこの空気感。かなり怒っているように見えるが。残りの四十分強、この狭い車の中でこの空気に耐えられるだろか。更にこれから本人である音無や万丈、それに何も知らない美空達も戻ってくるわけで。俺は修羅場にならない事を祈りながらまた少しだけ甘いコーヒーを口に入れた。やはり不味い。
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全員が休憩から戻り、サービスエリアを出発して二十分と少しが経った。車内は静寂に満ち、誰も声一つ上げない。眠気と疲れが来ているんだろう。けど、自分は違った。目は冴えているし、頭もハッキリしている。背もたれに頭を預けうとうとと目を擦る零子をちらりと見遣れば、その向こうで万丈くんも零子の事を見つめていた。あぁ、くそ。今までに無いほど苛ついてる。何にって、自分に対してだ。戦兎の言う通り、いつものように奪って来れば良かったのに。しかし、自分以外に見せないと思っていた顔を万丈にも見せていたのが分かってしまい、どうしても足が動かなかったのである。あの時と似ている。花家に見せたあの顔を見た時と。
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2020年11月6日 10時
