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「じゃあ頼んだぞ戦兎」
「次のサービスエリア、ハイキングコースがあるらしいぞ零子!」
「そんな時間ねぇよ!そんな十分そこらで行って戻ってこれるわけねぇだろ!」
休憩すると分かってか、こいつらはまた騒がしくなり始めた。明日まで保つだろうか、俺の体力……。
外の空気を吸いリフレッシュした俺は、一番最初に車へと戻ってきた。とは言っても、中では戦兎と西城が待っているのだが。キーを解錠すると同時に、自然と目は後部座席へと行く。後部座席はスモークガラスなのではっきりと見えるわけではないが、先程までと同じように西城が戦兎の肩に凭れて眠っていることだけはわかった。ドアを開けて車に乗り込む。
「まだ爆睡か?」
「あぁ、この様子だと着くまで起きないだろうな」
着くまでずっとそれか。肩に頭を預けられ嬉しそうに微笑む戦兎の姿に、何故だか眉間に皺が寄る。これじゃあまるで。
「先生、ちょっと俺に妬いてるだろ」
こいつは一番俺の突かれたくないところを突くから嫌いだ。
「……なんで俺がガキ相手に妬かなきゃいけないんだよ」
「全く……。全然分かってないよな。いつまで経ってもアンタがそんなだから」
そこまで言いかけて戦兎は口を噤んだ。奴の言いたいことは分かるが、気づかないふりをしてキーを差し、エンジンをかける。
「俺じゃ駄目なのに……」
エンジンの音のせいか、戦兎が小さく呟いた言葉を聞き逃してしまった。少し振り返り「何か言ったか?」と問いかけてみるも、奴から返事はない。──"アンタがそんなだから"か。分かっていないのはどっちだ。
「このままでいる他に、どうしろって言うんだよ……」
俺が、彼女にとって安心して駆け寄って行ける大人じゃなくなったら。それはつまり彼女にとって頼れる大人が居なくなってしまうということだ。だからこそ、戦兎や宝生に拠り所を任せたかったのに。俺がそのチャンスを明け渡しているのだから、そのままがむしゃらに彼女を掴み取ればいいのに。戦兎だけではない、宝生も。何故かそうしようとはしない。いや、もしかしたら本当は分かっているのかもしれない。今の彼女に、無闇に手を差し伸べてはいけないということを。俺も二人と同じだ。
買ってきたコーヒーの封を開け一口、口に含む。
「うわっ不味っ。なんだよコレ、微糖じゃねぇか」
「先生、無糖じゃないと駄目なんだっけ?」
「あぁ……。甘いのが飲みたきゃカフェオレ買うよ」
「変なの。甘いもん好きなくせに」
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2020年11月6日 10時