八月十日【コバルトブルーの熱（前編）】 ページ40
折角久々の連休だと言うのに朝早くから起こされ、俺は寝ぼけ眼を擦りながら背凭れに体重を預けて一息ついた。助手席に座っていた美空は、駅の構内で待っているらしい西城を呼びに出ている。しかし──。
「あっ、おい万丈！あたしのポテチ食うなよ！」
「いいだろ〜零子、減るもんじゃなし」
「っつーか自分の零子ちゃんにくっつかないでくんない？」
「減るもんじゃないって言うけど、思いっきり減ってるよね……？ポテチ」
「あ、そうそう仮野さん。季実子を隣に座らせたいから席開けてもらえる？」
子供(コイツ)らは朝から元気なものだ……。最初に仮野を迎えに来た時から、美空と彼女はずっと喋っていたし。人数が増えるにつれて彼らはどんどん盛り上がっていた。西城が来ればもっと騒がしくなるだろう。主に万丈と戦兎のせいで。ふっと息をついて窓の外に目を遣る。その先で、走ってくる美空と西城が目に入った。そういえば、私服姿の西城を見るのは久しぶりだ。オリエンテーション合宿の時の服装を私服とするなら違うけれど。どちらにせよ、めかし込んで楽しそうにこちらへ走ってくるあいつは……。これ以上はいけない。俺は今思い浮かんでしまった言葉をかき消すように頭を振り、ハンドルに突っ伏した。と、同時に助手席と俺の後ろの扉が開け放たれる。
「お待たせ〜。って、どうしたの？お父さん。めっちゃ項垂れてるけど」
「気にするな……」
「じゃ、わたしは先生を元気づける為に助手席に」
やめてくれ、とツッコもうとしたのだが、それは戦兎によって遮られた。
「駄目駄目、運転の邪魔になるから。季実子は俺の隣」
そう言って戦兎が西城を後ろの席へと引きずり込む。正直、今ばかりは助かったとしか言いようがない。もし彼女が助手席に座ったりしたら、彼女からの猛烈な押しによって事故を起こしかねないからだ(二重の意味で)。戦兎の助けによって、西城は俺の後ろに座る事となった。その隣が戦兎、そしてその隣が仮野だ。一番後ろの席では九条と万丈が音無の両脇に座り、互いを牽制しまくっているが。当の本人である音無は二人の様子に全く気づいていないらしい。せっせと菓子をつまみながらゲームに勤しんでいる。そして助手席に例によって美空が座り込み、全員揃ったところでいよいよ出発だ。
「シートベルト締めたか？」
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2020年11月6日 10時
