八月一日【あぁ夏休み】 ページ29
「こんにちはーっ！音無センパイっ」
「……よぉ」
眩しい太陽をバックに、片手を上げ満面の笑みで挨拶する石動美空に視線を遣り、あたしは額に汗した。彼女はスーパーかコンビニだかで買ってきたらしい荷物の入ったレジ袋を手に下げ、上げていた片手で自身をパタパタと煽ぎながら首を傾げる。
「どうしたんですか？固まっちゃって」
「……いや。まぁ、とりあえず入れよ」
「お邪魔しまーす」
夏休み初日、正午過ぎ。先述の言葉から分かるように、場所はあたしの家である。其処に何故そこまで絡んだことの無い石動美空が来たのかというと、理由は簡単だ。今日は数日前に予定されていた女子会の日だった。メンバーはあたしと季実子、明日那と今目の前に居る石動美空である。当初は季実子と石動美空が一緒に来る予定だったのだが、季実子は事務所で朝練があるらしく、遅れてくるそうで。明日那は電車を乗り過ごしたので遅れるとか。そして、残った石動美空が時間通りにやって来てしまったというわけである。
「……それにしても、おっきい家ですねー！もしかしてお金持ち？それか大家族？」
「親と兄ちゃんの四人家族だけど……」
まぁ、確かに。ウチは普通より少しだけ裕福なのかもしれない。割と高級な住宅街に住んでいるし、衣食住には困らないし、母親は専業主婦で父親の稼ぎだけで一人一部屋持てるような戸建てを建てた。兄の学費も親が全額出してくれるし、あたしの大学費用も貯めていると言っていた。何不自由ない生活だ。家の方針で欲しいものは自分でバイトして買うよう言われているので、あたしはゲームの課金の為にかなりバイトを入れているが。だからまぁ、貧乏な人から見れば裕福は裕福なのかもしれない。
「うちもここよりちょっと小さいぐらいの一戸建てなんですけど、でもやっぱり土地が違うもん。この辺だったらすっごく治安良さそう！」
「ンなことねぇよ。朝から酔っ払ってるじーさんとかいるし」
「それは……。暴走族とかよりある意味怖いかも」
「……にしても、一人で寄越されたって割には人見知りしねぇんだな」
「普段だったら結構人見知りしますよ。でも、あの季実子と仲が良い人だから……。きっと良い人なんだろうなって思って」
「なんだそりゃ」
いや、でもまぁ。ちょっと分かってしまう自分が居るのが怖い。季実子はあたしよりも更に人見知りな性格だ。それに、何故だか他人を誰でも遠ざけるような節もあるし。
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2020年11月6日 10時
