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先生をちらりと見遣れば、皆からの声に満更でもなさそうに照れながら後ろ頭を掻いていた。わたしもにっこりといつもの営業スマイルで「はい、そうなんです」と答える。わたしの返事にまた軽く皆が盛り上がり、司会者はそれを諌めつつ口を開いた。
「どういうところがタイプなんですか？」
「あ、えっと……。わたし、今は好きな人も居ないですし、特に好きなタイプっていうのも無くって、優しければいいんですけど……」
真っ赤な嘘である。
「石動先生とは十年来の仲で、小さい時は石動先生の事が好きだったので……。なので、間違いなく石動先生は好みのタイプかなーって思ったんです」
「……！なるほど、昔から知り合いだということは周知でしたが、アイドルの知られざる過去の恋愛が聞けるとは……！」
「あはは、過去の恋愛だなんて。小さい頃のおままごとみたいな恋ですよ。ふふ」
よし、怪しまれてない。更にお題には沿っているので、このままゴール扱いだ。先生はわたしの華麗な嘘にやれやれと苦笑いしながら肩を竦めていたが、仕方ない。こうするしかなかったのだから。ゴールできた事……ではなく、上手く誤魔化せた事に小さくガッツポーズをして、わたしは石動先生と待機場所に戻った。他の走者に同じ人が選ばれないよう、選ばれた人は走者と共に競技が終わるまで隣で待機しなくてはならないのだ。肝を冷やしはしたが、まさかこんな形で先生と絡むチャンスが巡ってくるとは。思わぬ幸運に頬が緩む。
「まさか本当に俺を選ぶとはな……」
「八方塞がりだったので、つい……」
苦笑いを浮かべていると、前に並んでしゃがみこんでいた零子ちゃん達が振り向いた。序盤に三角関係を見せて話題をかっさらっていった当事者として、周りの子達にかなり絡まれたのだろう。花家先輩と二人揃って、物凄く疲れた顔をしている。面と向かうのは初めてなので、彼に軽く会釈していると。他の生徒に選ばれ待機場所に居た紗羽さんがわたしの肩を叩いた。
「あっ、紗羽さん！それにしても凄いですよね"美人だと思う人(生徒限定)"に選ばれるなんて。三年連続らしいじゃないですか」
「いやぁ、照れちゃうなぁ。でも、季実子ちゃんも！まさか本当に先生を選ぶとは思わなかったわ」
紗羽さんもわたしが先生を好きだということを知っている人物であるだけに少しやりづらい。
「動揺してたの超面白かったよね〜！」
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2020年11月6日 10時
