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「ああ、わかっている」
そう言いつつも、彼女の体はぴくりとも動かない。
ヨシヒコは困ったように眉尻を下げながら、彼女をじっと見つめていた。
「仕方ない。部屋まで運ぶぞ」
ダンジョーが立ち上がり、軽々彼女を担ぎ上げる。
起きているはずなのに何の抵抗も見せない彼女は、なんだか間抜けなような、お茶目なような。
うむ、可愛い。
最初の頃の彼女とはえらい違いである。
部屋へ連行されていく彼女を見ながら、俺は惚けていた。
「私は剣の稽古をしてきますので」
「うん、頑張ってね、ヨシヒコ」
そんなヨシヒコとムラサキの会話も聞こえていない、俺だよ。
にしても、俺にも力があればなぁ……。
Aをお姫様抱っこできるのに。だってアイツ筋肉多すぎて重いんだよ。
ゴツッ
「でっ！」
突如背中に走った痛みに、重いという気持ちがAに聞こえていたのだろうかと、辺りを見回す。
しかし、それは勿論俺の勘違いだった。
ムラサキが後ろから俺の背中を小突いたのだ。
「ちょっと、来て」
文句を言おうと振り向いた先のムラサキの表情は、なんだか暗かった。
―――――
ムラサキに言われるまま外にやって来たものの、彼女は全く口を開かない。
なんだか、気持ち悪いな、この感じ。
居たたまれないというか、なんというか。
「あのー、ムラサキさん？」
ムラサキは、何度も後ろを振り向いたり、周りを見渡したりして、ようやく此方を向く。
何か言いにくそうに口をパクパク動かしているが、うむ……。
もじもじと忙しない動きと、赤い頬。
定まらない目線。
そして
ふ た り き り ？
なななななな、なるほど、いくら俺でも分かったぞムラサキ。
確かに俺は女心とかそういうの分かんないから理解するのに時間がかかったが、流石にもうわかった。
長年共に旅してるからな、そういう気持ちになったって可笑しくない。
俺はそんなお前の気持ちを笑わない。
きちんと受け止めよう。
きちんと受け止めたうえで伝えよう。
俺はお前の気持ちには応えられない。
と……。うむ。真面目に。
ムラサキはきっと傷つくかもしれないが、きちんと言っておかないと、もっと傷つけてしまうだろうからな。
大人な対応だ。
真摯に応えるんだぞメレブ。
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作者名：うれい | 作成日時：2017年12月28日 5時
