第58話 ページ10
Aはネックレスをいじりながら、珍しく困ったように言う。
「エルヴィンは、そんな状態の私の事をよくまだ…その」
「…そうだな。自分でも不思議だ。君とリヴァイの事を考えるだけで本当に最悪な気分になる」
「…」
「でも君とこうして話が出来ただけで、数年ぶりに呼吸ができたみたいに気持ちが穏やかでもあるんだ」
エルヴィンの表情は本当に穏やかだ。
「だから、君を無理に忘れようとは思っていない。自然にそうなる日が来るのを待っている。君には、俺以外の人と幸せになってほしい」
「エルヴィンの中で、折り合いがついてるのね」
「…ああ」
そう頷くエルヴィンを見て、Aは今度こそバルコニーから出る為に体勢を整えた。
「A。この壁外調査が終わって一通り落ち着いたら、また食事に付き合ってくれないか？前に、食事に行ったときに言えなかった事を言わせてほしい」
エルヴィンと食事に行った時、帰り際に言おうとしていたアレだ、とAは気づく。
「きっと君が思うような事じゃない。友人としてだ」
「…。分かった」
Aはバルコニーから出るドアノブに手をかけるが、そこで立ち止る。
「エルヴィン。これは私の折り合いの為に。もう一度聞いておきたいんだけど」
エルヴィンは黙ってAの背中を見つめる。
「エルヴィンは、私がいなくてももう大丈夫なのよね？」
その問いにエルヴィンは少し間をおいて頷く。
「ああ。…平気だ」
「そう。良かった」
Aは小さく笑うとバルコニーを出て行った。
それから入れ替わりでエルヴィンの部下がバルコニーに入ってくる。
Aとの会話が終わったと分かって、業務の報告にきたらしい。
報告書を渡しながら部下は聞いてきた。
「あの。Aさん、何かあったのですか？ここを出てこられた時、…泣いておられたようでしたが」
「…え？」
「い、いえ！本当に泣いていたのかは分かりません！ただ、目元が真っ赤でいつもと雰囲気が…だから泣いていたのかと」
その返答に、エルヴィンは部下に断りを入れるとバルコニーを出た。
Aがここを出て行くのに通るであろう廊下を走るが、彼女に出会うことなく建物から出てしまう。
息を切らせながら周囲にいた兵士に聞き込みをすると、さっき馬に乗って出て行ったと言われる。
今日からエレンの巨人化実験なので、そちらに向かったのだろう。
(何故、泣くんだ…俺はただ…)
エルヴィンはしばらくそこから動けなかった。
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作者名：ララ | 作成日時：2021年5月7日 20時
