第57話 ページ9
「なに?」
「…いや、…ああ」
エルヴィンは呼び止めてみたものの、何か話題があるわけでもなかったらしい。
呼び止める際に思わず掴んだAの腕をゆっくり離すと、手持ち無沙汰になったその手で飲みたくもないお茶を飲む。
「久しぶりに2人で話をするんだし、もう少しゆっくりしていかないか?」
「…気づいてると思うけど、私はあれからエルヴィンと2人きりにならない努力をしてるの。だから嫌」
「なら命令にしよう。少し上官の話に付き合ってくれ。それに、ここなら他人の目がある。2人きりでもないだろう」
「…」
Aはまた手すりにもたれる。
「…君が声をかけてきて、ここに来て、今、少し話をしたが」
エルヴィンは顎に手を当てた。
「なにかおかしいんだ」
「なにが?」
「分からない。だが何かおかしい。この数分、心がザワザワする。俺はまだ、君に「やめて」
Aは呆れた様に言い放つ。
「エルヴィン、縁談どう?うまくやれてる?」
「…。ああ。うまくやれている…と言っていいんだろうな」
「なら貴方は、そっちを大事にするべき。私との関係は今のままで十分良好じゃない」
その言葉でしっかり線引きをしてくるA。
「俺とあの人が本当はどういう状況なのか位、君なら察しがついているだろうに」
「…なんのことだか」
Aは首元のネックレスを触りながら言った。
「リヴァイとは、恋人同士なのか」
「…」
「俺と同じ状況か」
「…。リヴァイがそれでいいっていうから」
「それはズルいな。後出しジャンケンじゃないか」
そんな事をいうエルヴィンにAは少し笑う。
彼女が笑ったことで、空気が少しほぐれた。
「実はここ数年、リヴァイに牽制されっぱなしなんだ」
「牽制?」
「君に近づいてほしくないらしい。よく何年も続くものだ。こんな所見られたら、また何を言われるか分かったものじゃない。…あと、よくぼやいているよ」
エルヴィンが穏やかに微笑む顔を、Aは久しぶりに見た。
「リヴァイは、君の口から好きだとは聞いたことがないようだ」
そんな事、気にしたこともなかったAは、興味なさそうな顔だ。
「でも俺は言われたことがある。恋人だったことがあるからな。それだけが、俺がリヴァイに勝っている所だ」
Aは少し困ったように俯いた。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時