第56話 ページ8
「エルヴィン」
調査兵団屯所で、廊下を歩くエルヴィンを呼び止めたのはAだ。
振り向いたエルヴィンにAは駆け寄る。
「ちょっと新兵の事で相談があるんだけど」
「そうか。ならバルコニーに行こう。ちょうど一服しに向かう所だった」
あの日から密室で2人きりになる事はどこかで避けていたAは一瞬迷ったが、すでに歩きだしているエルヴィンについて行った。
バルコニーにはエルヴィンの部下がお茶を準備してくれていた。
本当にただ一服するつもりだったようで、椅子もなく小さなテーブルにお茶のセットが1組あるだけだった。
「ここは屯所が見渡せるから、俺達がいれば重要な話をしていると思って誰も来ないだろう。急だったんで君のお茶がないのは申し訳ないな。持ってこさせようか」
「別にいい。長い話じゃないから」
2人はバルコニーの手すりにもたれて話を始めた。
「それで?新兵とは、ミカサ・アッカーマンの事か」
「よく分かったね」
「ああ。君の旧姓と同じだし、珍しい名前だからな。俺も気になった」
エルヴィンはお茶を一口飲んだ。
「彼女の経歴書が見たいという相談か?」
なにからなにまでお見通しという訳だ。
Aは黙り込む。
「残念だが、君が望むような情報はなかった。巨人襲来後に孤児になって、そのまま訓練兵だ。ご両親も彼女が小さい頃に亡くなっている」
「あの子も両親を?」
Aは驚いてエルヴィンを見ると、彼もこちらを見ていた。
思えば何年かぶりに2人きりで真っ直ぐに目をあわせたかもしれない。
2人共何か気まずくなって目を逸らし、態勢を元に戻した。
エルヴィンは咳ばらいを一つして続ける。
「年齢や、アッカーマンを名乗り続けている事からして、彼女もご両親から何か聞けているわけではなさそうだ。話をしてみてはどうだ」
「駄目。無駄に不安にさせるようなことをしたくない」
Aの本当の名前がアッカーマンである事は、エルヴィンとハンジしか知らない。
彼女は両親が亡くなってから引き取られたクロフト家で、旧姓を名乗ることを止められた。
その理由が知りたくてずっと調べているのだが、なにかとんでもない事実があった時に困るので、大々的に調べることはしていなかったし、このまま分からなくてもいいとすら思っていた。
それがミカサの出現でまた興味が湧いてきたのだ。
Aは「ありがとう」と言うと、手すりに預けていた身体を起こす。
するとエルヴィンが呼び止めた。
26人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時