第90話 ページ43
ひとしきり話をしたハンジは、終始隣で黙って座っているエルヴィンを横目に見る。
「えーっと…。あ！私、ちょっと用があったんだよ！ごめん、エルヴィン。あとは任せてもいい？」
一方的にそう言うと、ハンジは病室から出て行ってしまった。
2人きりになったAとエルヴィンはしばらく黙っていたが、Aから口を開いた。
「エルヴィン…傷の具合はどう？」
端正な顔が所々腫れていて痛々しい。
左の瞼も腫れがまだ引いていないのか重そうだ。
「俺は丈夫に出来ている。左腕は繋がれていたから調子が悪いが、仕事に支障はない」
いつも通りのエルヴィンに笑ったAだったが、一方エルヴィンは何か思い詰めたように眉をひそめた。
その様子に何かを察したAは言う。
「ナイルさんに何か言われたのかもしれないけど、なにもされてないよ」
いきなりそう言われてエルヴィンは俯く。
「それが気になってたんじゃないの？ナイルさんの口ぶりでは、私に何かしたって事をエルヴィンを揺さぶる材料にしたそうだったから。あの人が言った余計な何かが真実なのか聞きたいんじゃないかと思って、あった事を教えたんだけど。…違った？」
「…すべてお見通しだな」
そう言ったAを、エルヴィンがそっと抱き寄せた。
「怖かっただろう」
「…」
Aはエルヴィンに抱きしめられたままで応える。
「あそこで私が捕まらなかったらハンジがどうなっていたか分からなかったから。行動に伴った結果だし、別に」
ハンジを助ける為に捕まったのに、それでエルヴィンの描いた計画が崩れてほしくなかった…。
エルヴィンも最初は意味が分からなかったが、実際にあの状況になってみるとAの言っていた事が理解できた。
「そんな過ぎた事よりも」
小さくそう言ったAは、エルヴィンの胸に頭をくっつける。
「今は、エルヴィンとまた会えて、とても嬉しい。とても」
「…。右腕があれば、ちゃんと君を抱きしめられたのにな」
「いいよ。こうする」
Aは、腕が通っていないエルヴィンのシャツの右袖を自分で首に巻き付けた。
「エルヴィンの匂い…」
「…A。戴冠式の後、休暇が出る予定なんだ。今度こそ食事に付き合ってほしいんだがどうだろう」
「うん。行こう」
2人はしばらくそのままジッとしていた。
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作者名：ララ | 作成日時：2021年5月7日 20時
