第86話 ページ39
エルヴィンは片腕だけを壁に張り付けられて拷問を受けていた。
彼ほど鍛えていても、数時間も殴られ続ければ意識も飛ぶ。
何度目かの気絶を目覚めさせたのはナイルの声だった。
「おい、エルヴィン」
流石に同期がこんな姿になっているのは気が咎めるらしく、ナイルは遠慮がちだ。
「Aを捉えたぞ」
その声にエルヴィンが顔を少しあげた。
「アレの名前を出したら反応するのか」
「…何故、彼女が」
「Aを一目見たいという手練れの憲兵がいてな。ソイツが捕まえてきたんだ」
Aは調査兵団でもトップクラスの戦闘力があった。
エルヴィンはその彼女が捕まったことが信じられない。
「そろそろ口を割っておけ、エルヴィン。Aの名前と顔は中央憲兵にも知られている」
エルヴィンはAの言葉を思い出す。
まず本当に捕まったのかも分からないし、もし捕まっていたとしてもあれだけAに執着していたナイルがそう簡単に上に彼女を差し出すとも思えない。
中央憲兵の手に渡ったらナイルすらもAに会えなくなるのだから。
全ての事は、ナイルに悟られてはいけない。
「俺達の命には優先順位がある。この状況に置いて、彼女の命はさほど重くない」
「そう言うだろうな、お前なら」
ナイルは呆れた様に肩をすくめる。
「Aが拷問を受けている。お前と親しいようだから、何か知っていることはないかとな。女の受ける拷問だ。どんなものか想像がつくだろう。恥辱の極みだ」
「…」
「子供が出来ないような身体になるかもしれないな」
「ナイル、お前…」
「まあしかし、そろそろ中央憲兵のお偉方が聞きつけ始めた」
「…」
「奴らは常に拷問相手を探しておいでだ。女なんて久しぶりな上に今や悪役の調査兵だ。Aを渡せと催促されている」
「…」
「それでも言わないか」
もう何も言わないエルヴィンに、ナイルは諦めたように部屋を出て行った。
人がいなくなった後の独房で、エルヴィンは唇を血が出る程に噛みしめた。
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作者名：ララ | 作成日時：2021年5月7日 20時
