第52話 エルヴィン視点 ページ4
程なくして馬車は調査兵団詰め所前で停まった。
エルヴィンが不思議そうにハンジを見ると、無理矢理馬車から押し出される。
「なんだ、急に。ここは宿舎では…」
「エルヴィン。仕事、残ってないの?」
「?」
「執務室にいてよ。Aが行くと思うから」
エルヴィンは息をのむ。
ハンジは自分に何をさせようと言うのだろう。
そんな様子のエルヴィンに、ハンジは半ば呆れた様に言う。
「明日の朝になって、婚約の話が人づてにAの耳に入ったら、それからじゃなにも出来ないかもしれないでしょ?あの子の事だから、話もしてくれなくなるかもしれない」
エルヴィンは押し黙る。
「私がこれからAに婚約発表の事を話して、執務室に行くように説得するから。ちゃんと話をしなよ」
ハンジは少し困ったように顔をしかめてエルヴィンを見据える。
「随分甲斐甲斐しいな」
「…あなた達の付き合いも長いんだから、こんなうやむやな形で終わるべきじゃないと思ってる。それだけだよ。じゃーね」
そう言い捨てるとハンジは馬車の扉を閉めて立ち去ってしまった。
遺されたエルヴィンはしばらくその場に立ち尽くしていたが、あの口ぶりでは何としてでもAを寄こすつもりな様なので執務室へと向かった。
部屋でAを待つ間、色々考えた。
何がAと自分にとって幸せなのだろうと。
きっとこの関門を乗り越えても、調査兵団団長である自分には次から次へと問題が降りかかるだろう。
自分一人なら、適当に話を作って、合わせて、誰かを傷つけて、なんとかなるが。
それにAを付き合わせるのか。
しかも彼女の本当の気持ちは分からない。
自分の事が好きなら、リヴァイと寝たりしないはず…だが、彼女の事だからそのあたりも分からない。
そもそも今更こちらが何を言ったところで、Aの気持ちがリヴァイに向かっているのなら無意味なのではないか。
先ほど、馬車の中でハンジに言った、「彼女の為ならなんでもしよう」という言葉。
彼女の為ならなんでも出来るのなら…
何をするべきなのか…
すると、
コンコン、と
ノックの音が響いた。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時