第73話 ページ26
「あの子、親の私がいうのもなんですが、ああいう…目立つ外見をしているでしょう」
「その上、壁外調査から帰れば討伐報告書上位にはあの子の戦果が載る。その度に話題に上がって、憲兵さんの中にはあの子に邪な感情を抱く連中がいるんです。父親が私だとも知らずに、目の前で下品な事も言う訳ですよ」
「…」
「それに関しては、まぁ男ですからね。ある事でしょう。でも余計な事は言わない様にする為に、妻には言っておりませんでした。団長さんも、彼女に何も言わないでいてくれた。流石にあれだけの兵団をまとめている御方は違いますね」
手早く包帯を巻いた彼は、医療器具を片付けながら笑う。
「でも、そこで本気で怒れず聞き流せる私は、やはり父親失格なのかもしれませんね」
「それは違うのではないですか？」
エルヴィンは冷静に、それでも強く言った。
父親は少し驚いたようにエルヴィンを見る。
「私は子供を育てた事もありませんし、幼い時に父を亡くしていますが、あなたの彼女に対する気持ちはとても深いものだと…思います。ご自身の感情よりも、Aの立場を優先したのでしょう。そこであなたが突っかかってしまっては、Aが何を言われるか分からないから」
「…」
「その話をしている間、ずっと手が震えていましたね。誤魔化そうとして手早く処置されていましたが…」
父親は黙って俯く。
「あなたは、Aの父君です。正真正銘の。…貴方の笑う顔や、その遠回しな優しさも彼女にそっくりです」
エルヴィンがそう言うと、父親はAとよく似た微笑みを浮かべて顔をあげた。
「ありがとう。貴方のような上司の下で働けて、Aは幸せでしょうね。…そうだ、桶を持ってきますので、もしよければ身体を拭くのに使ってください」
「ありがとうございます」
「あと、Aから連絡が来まして。明日の午後には兵団病院に移った方がよさそう、だそうです。経過も良好ですから、移動して頂いて構いませんよ」
「ええ。お世話になりました」
「Aはハンジに捕まっているらしく、今日はあちらに泊まるそうですが、朝には迎えに帰ってくるとの事です。私と妻は、明日王都で診察がありますのでこれから出ます。…つまり、朝まで団長さん1人ですが大丈夫ですか？」
「ええ」
エルヴィンが頷くと、父親は軽く挨拶をして出て行った。
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作者名：ララ | 作成日時：2021年5月7日 20時
