第72話 ページ25
無事に外出の許可が下りて、昼食後にエルヴィンはAの家の庭にいた。
小さいが手入れのされた庭を、Aの母親である看護師に付き添われながら歩く。
診療所の庭続きにAの家が建っていて、本当にこじんまりとした雰囲気だった。
「まさか看護師の貴方が、Aさんの母親だったとは」
「この規模の診療所ですからね。…それよりもごめんなさい。あの子、ハンジちゃんにあなたの報告に行ってしまって。部下の母親が付き添うなんて気を遣いませんか?」
「いえ、そんな」
確かに気はつかうが、基本的に秘密主義者の彼女が自分の身内を明かしてくれるのはこの先ない気がして、これも彼女を知るいい機会だと思った。
しかし。
「あの子、昔から奔放で家にも寄り付かないから…私たちにも分からない事が多くて。集団行動も苦手なので、調査兵団でご迷惑おかけしていませんか?」
どうやら両親は、彼女の功績を何も知らない様だ。
調査兵団での地位や、討伐数がダントツであることも、そもそも訓練兵を主席卒業であることも知らない様子に、エルヴィンはなんと言えばいいのか分からなかった。
だからいきなり調査兵団団長を連れてきた事も驚いたらしいが、腕が損壊していたので納得したのだと言う。
きっとAにも両親に言いたくない理由があるのだと思い、エルヴィンは余計な事は言わず。
ただ、
「父君が腕のいい医者だとは聞いていたので、無理を言って紹介してもらったんです」
と言うに留めた。
部屋に戻り夕飯を摂って休憩していると、Aの父親が診察にきた。
腕が化膿していないのを確認して包帯を巻く。
「やはり普段から鍛えていらっしゃるから、治りも早いですね」
「Aさんの処置も良かったのかもしれません。止血と包帯の巻き方が医者のそれでした」
エルヴィンの様子に父親は笑った。
「いいんですよ、Aの事は呼び捨てで。私の前だからと気を遣われなくても。貴方とAとハンジが、よく王都に遣いに来ていたのは知っているんです。仲がいいんですね」
彼は王都に仕事で来ていた時や、憲兵団詰め所に赴いた時に、エルヴィン達を見かけたことが何度もあるそうだった。
さすがに恋人同士だったことは知らないようだが。
「あの子の活躍も、私は知っています。嫌でも耳に入ってきましたよ。妻には言っておりませんが」
「…何故です?」
父親は更に困ったように眉をひそめた。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時