第71話 ページ24
翌朝。
一晩寝たら起き上がれるほどになったエルヴィンは、ノックの音で目を覚まして身体を起こした。
返事をすると、ドアが開いてAが入ってくる。
私服姿で髪を下ろした彼女を見たのは久しぶりで、一瞬誰だか分らなかった。
Aはスープが乗ったトレーをサイドテーブルに置く。
「…目を覚まして良かった」
「ああ。君のお陰だな。聞いたよ。あの状態で俺を担いでここに連れてきてくれたんだろう。俺は何日寝ていた？」
「１日だけ…あの。腕、」
言いにくそうに俯くAに、エルヴィンは「気にするな」と声をかけたが、Aは首を横に振る。
「そうじゃなくて。腕、くっつかないって言われたから…。亡くなった兵士のご家族に渡してしまって。エルヴィンが目を覚まさなかったから許可を貰う前に、その」
どうやらエルヴィンの命に別条がない事が分かったから、彼の腕を遺品代わりにご遺族に渡してしまったらしい。
エルヴィンは笑いながら無くなった腕の付け根を触る。
「別にいい。俺のどうしようもない腕が誰かの役に立ったんだろう」
それから2人は何とも言えない空気になって黙り込む。
あのテラスでの会話以来、ロクに話もしていない。
エルヴィンが顔を上げた。
「A…悪いんだが、そのスープ、食べさせてもらえるか？利き腕がないから零してしまいそうでな」
「分かった」
Aはスープ皿を取ると、少しずつエルヴィンに食べさせた。
「ここに居る事は、他の兵士達は…？」
「詳しい場所は知らない。ハンジは知ってるけど、ここには見舞いに来ない様に伝えてるわ」
「何故だ？父君は王都で有名な方なのだろう？」
「だからこそ、ここでひっそり診療所をやってるのを知られたくないんですって。いずれは王都に行くことやめて、ここでゆっくりしたいらしいから。だから、エルヴィンは重症だから特別処置室にいるって事になってるわ。もう少し休んだら、兵団病棟に移りましょう。報告も山積みだし」
Aは空になったスープ皿をトレーに乗せる。
「ここは君の家なのか？」
質問が多いな…という顔をしながらAは頷く。
「家と併設されてるの。同じ敷地内に診察所を建てていて病室はここだけだから、私達以外の誰かと会う事もないわ。気楽にしてて」
「そうか。少し外の空気が吸いたいんだが…」
そう言うとAは顎に手を当てて考える。
「じゃあ父さんに聞いとく。ＯＫが出たら、昼に庭に出てみよう」
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作者名：ララ | 作成日時：2021年5月7日 20時
