話70話 ページ23
夢の中とは違い、今の自分は全身に倦怠感があって、起き上がるのも辛い。
しばらくすると医者が入ってきた。
寝ころんだままのエルヴィンの容体を確認する医者に、エルヴィンは声をかけた。
「ここは、病院ですか?」
「ええ。貴方は帰還中に気を失ってしまったらしいのです。…沢山の人が亡くなったようなので心配していましたが…貴方は腕以外は無事なようです」
「…A・クロフトという女性兵士はその中に居ましたか?彼女も相当な怪我をしていたのだが」
「ええ。Aがあなたをここに運んできたんですから」
「…は、」
目の前の医者が、Aを名前で呼んだ事に違和感を覚える。
「Aは私の娘です。ここは私の家に併設された診療所です。Aが貴方を担いでここまで来ました。壁外帰りで全身ボロボロなのに、千切れた腕を持ってね」
医者は困ったように言う。
「驚きましたよ。普段ロクに手紙も寄こさない娘が、血だらけの男性を馬に乗せていきなり帰ってきたかと思えば、血だらけの腕を差し出して「父さんなら治せるか?」と迫ってきましてね。流石に腕は治せませんでした。申し訳ない」
「そんな。命があっただけで」
起きがけで話しにくいエルヴィンが疑問を持ちそうな事を、彼の方から教えてくれた。
彼は王都では名の通った医師なのもあり、エルヴィンは腕も損壊しており重症なので…と説明をして一時的に引き取れた事。
Aが自分の麻酔薬を使ったと話したので、その成分を薄める点滴を打った事。
(その処置がなければあと1日寝ていたかもしれないらしい)
寝ころんだまま黙っているエルヴィンに、医者は人のよさそうな笑みを向ける。
「Aは元気ですよ。打撲や切り傷はありましたが、それだけです。貴方が目を覚ました事を伝えておきますね。…今からなら夕飯になりますが、食事は摂れそうですか?」
「いえ。まだ…」
「では明日の朝、Aにでも軽食を運ばせます。娘に無事な姿を見せてあげて下さい。とても心配していましたから」
立ち上がる医者をエルヴィンは引き留めた。
「申し訳ない。大事なご息女に大怪我をさせたのは、私の未熟さ故です」
謝罪したエルヴィンに、医者は微笑む。
「私はそんな料簡の浅い人間ではありません。貴方が謝る事では無いでしょう。それがあの子の選んだ仕事だし、あの子があんなになってでも助けた貴方を私も尊敬していますよ」
医者は部屋を出て行った。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時