検索窓
今日:11 hit、昨日:18 hit、合計:11,288 hit

話70話 ページ23

夢の中とは違い、今の自分は全身に倦怠感があって、起き上がるのも辛い。

しばらくすると医者が入ってきた。
寝ころんだままのエルヴィンの容体を確認する医者に、エルヴィンは声をかけた。

「ここは、病院ですか?」
「ええ。貴方は帰還中に気を失ってしまったらしいのです。…沢山の人が亡くなったようなので心配していましたが…貴方は腕以外は無事なようです」


「…A・クロフトという女性兵士はその中に居ましたか?彼女も相当な怪我をしていたのだが」
「ええ。Aがあなたをここに運んできたんですから」
「…は、」

目の前の医者が、Aを名前で呼んだ事に違和感を覚える。

「Aは私の娘です。ここは私の家に併設された診療所です。Aが貴方を担いでここまで来ました。壁外帰りで全身ボロボロなのに、千切れた腕を持ってね」

医者は困ったように言う。

「驚きましたよ。普段ロクに手紙も寄こさない娘が、血だらけの男性を馬に乗せていきなり帰ってきたかと思えば、血だらけの腕を差し出して「父さんなら治せるか?」と迫ってきましてね。流石に腕は治せませんでした。申し訳ない」
「そんな。命があっただけで」


起きがけで話しにくいエルヴィンが疑問を持ちそうな事を、彼の方から教えてくれた。


彼は王都では名の通った医師なのもあり、エルヴィンは腕も損壊しており重症なので…と説明をして一時的に引き取れた事。

Aが自分の麻酔薬を使ったと話したので、その成分を薄める点滴を打った事。
(その処置がなければあと1日寝ていたかもしれないらしい)


寝ころんだまま黙っているエルヴィンに、医者は人のよさそうな笑みを向ける。

「Aは元気ですよ。打撲や切り傷はありましたが、それだけです。貴方が目を覚ました事を伝えておきますね。…今からなら夕飯になりますが、食事は摂れそうですか?」
「いえ。まだ…」
「では明日の朝、Aにでも軽食を運ばせます。娘に無事な姿を見せてあげて下さい。とても心配していましたから」

立ち上がる医者をエルヴィンは引き留めた。

「申し訳ない。大事なご息女に大怪我をさせたのは、私の未熟さ故です」

謝罪したエルヴィンに、医者は微笑む。

「私はそんな料簡の浅い人間ではありません。貴方が謝る事では無いでしょう。それがあの子の選んだ仕事だし、あの子があんなになってでも助けた貴方を私も尊敬していますよ」

医者は部屋を出て行った。

第71話→←第69話 エルヴィン視点



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 7.5/10 (11 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
26人がお気に入り
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。