もう1人のアッカーマンー中編ー (ページ20)

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第67話ページ20

立ち上がったAを見ると、なにやら血だらけの布を持っていることに気づいた。
それをたすきの様に前掛けにして、身体から離れない様にギュッと巻き付ける。
布から染み出した血が、彼女の綺麗なシャツにシミを作った。

「A。なんだそれは？」
「エルヴィンの腕。一応」

驚いたことに、Aは噛み千切られたエルヴィンの腕を巨人の口から取り出して持っていた。

「父さんは腕のいい医者だから、何とかなるかもしれない」
「…いくら君の父君が有能な医者でも、取れた腕がくっつくなど聞いたことがない」
「分からないじゃない。それにエルヴィンがこのまま食われたら何も残らない」
「まさか…俺は今日死ぬのか」
「この作戦はそういう作戦でしょ」

この作戦が相当ギリギリな事は、彼女には分かっていたようだ。

「…汚いだろう。腕は置いていけ」
「汚くない」

真っ直ぐにエルヴィンを見てハッキリとそう言ったAに、エルヴィンはもう何も返せなかった。

「馬に乗れる？エルヴィンの腕力なら片手でも手綱が持てるかしら」
「問題ない。エレンを助けなければ」

馬を走らせながらAが言う。

「エレンは私が助ける。エレンの事となると必死になるミカサがいるからなんとかなると思うわ。エルヴィンは他の兵士の指示を」
「駄目だ。俺が行く。君は援護に回ってくれ。周りに他の巨人がいては救援しづらい」
「死ぬかもしれないのよ？」
「もとよりそういう作戦だと知っていたんだろう？どのみち俺は利き腕がなく戦闘力も低下している。壁内に戻れないかもしれん。君は生存率の高い者から救ってやってくれ」

エルヴィンの言葉にAは黙り込む。
しかしすぐに顔をあげる。

「エレンを助けたら私を呼んで。助けに行くから」
「駄目だ。君は全力でエレン救援の援護に回るんだ。俺が死んでも代わりはいる。ハンジだってエレンが生きていたら喜ぶ」

エルヴィンの強い口調に、Aは眉間にしわを寄せたが、「分かった。じゃあ」と言って馬を寄せると、小さな箱を差し出す。
中には小さな注射器が入っていた。

「なんだ、これは？」
「父さんの使ってる局部麻酔。手術をする時の強力な物よ。今打っておけばいい。右腕の痛みは嘘みたいになくなると思う。…通常なら1時間位で眠気に襲われるから、それまでに安全な場所にいないとアウトだけど。どうせ死ぬ覚悟があるんだからいいでしょ」

Aはそれきり何も話さなかった。