第66話 エルヴィン視点 ページ19
(右腕の感覚がない)
エレン奪還の為に駆け出したエルヴィンだが、右腕を巨人に食われている。
他の兵士には自分の救援ではなくエレン奪還に向かわせた。
自分が鼓舞したからだ。
目の前に大きな口があって周囲の状況が分からないが、兵士はいないだろう。
自分で何とかするしかない。
今も巨人が、エルヴィンの右腕を嚙み千切ろうと歯をすり合わせている。
その度に全身の毛が総毛立つほどの痛みが走った。
しかし鍛え上げられた腕を噛み千切るのが難しかったのか、噛むのを諦めて、今度は両手でエルヴィンの胴体と足を掴み、上半身と下半身を分離させようとしているのが分かった。
腕を口から引き抜こうと巨人の顔にブレードを突き立てても、力がこめられず刃が通らない。
「くそ…っ」
大きく舌打ちをした時。
右腕の感覚がなくなったのと同時に浮遊感が訪れた。
一瞬何が起きたのか分からなくなる。
もう死んだのかとすら思った。
しかし耳に触れる風を切る音と、目の前にあった巨人の顔が遠のくのが見えて、まだ生きていることを実感した。
そして巨人の顔の代わりに視界に飛び込んできたのは、返り血まみれのAだった。
チラッとエルヴィンを見て生きているのを確認すると、「流石に重いっ」と呟く。
倒れていく巨人の死体に器用に立体起動装置を差しながら、最終的に地面に転がり落ちる。
こんな動きができる辺りは流石と言ったところだ。
大柄な男をかかえきれず、2人して地面にゴロンと転がるが、Aが素早く立ち上がって駆け寄ってくる音がした。
「エルヴィン!」
聞こえてきた声に目を開けると、Aが肩で息をしながらホッとした表情でこちらを覗き込んでいた。
エルヴィンの無事を確認したAは、「ちょっと待ってて」と言ってどこかへ走っていく。
しばらくして戻ってきた彼女は、どこかから拝借してきた制服のシャツと、2頭の馬を連れてきた。
手際よくシャツを裂いて包帯を作ると、それで止血する。
「君が来るとはな」
「なに?」
「いや」
言葉を濁すエルヴィンに怪訝そうな表情を浮かべたAだったが、包帯を巻き終えると立ち上がった。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時