もう1人のアッカーマンー中編ー (ページ16)

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第63話　エルヴィン視点ページ16

あれから。

バルコニーで話をしてからAが顔も合わせてくれない。
すっかり警戒されてしまったみたいだ。

エレンの巨人化実験中とはいえ、彼女はハンジの遣いでしょっちゅう詰め所に通ってはいる。
それなのにこの1か月弱、まともに話ができない。

考えてみれば彼女は分隊の班長。
本来なら団長の自分と接点などほとんどない。

Aを呼び出したら彼女の後輩のモブリットを寄こしてくる。
手紙にして渡しても返事がないので読んだのかは分からない。
そもそも受け取っているのかも分からない。
モブリットは「渡しました」と言うが、Aがそう言っておけと言えばそれまで。

彼女の方から避けられたら2人きりになる事などできないことが分かった。

泣かせてしまった事を謝りたいだけなのに。

壁外調査を翌日に控えた日の朝。

エレンの巨人化実験を終えた彼女は、リヴァイ班と共に帰ってきた。

エルヴィンの執務室は詰め所の正門が見渡せる場所にある。

なんとなく外が騒がしくなったので外を見ると、ゾロゾロとリヴァイ班が帰ってきた所が見えた。

リヴァイ班の面々に親し気に声をかけられて、本人はいつもと変わらず無表情ではあるが、その雰囲気は悪くない。

もう自分とあんな風に話をする気はないのかもしれない。

エレンの事があってから、なんだか周囲が騒がしい。
嫌な予感もする。

しかし今晩もあのお嬢様に食事に誘われていて、そこにノコノコ向かう自分が、彼女に何か言う事などできないのだろう。

(声をかけて話ができたとしても、「すまない。食事に呼ばれているんだ」と中座するしかないんだからな。余計嫌われるか)

机に肘をつくと、大きなため息をつく。

(すべてぶちまけてしまいたい)

あのお嬢様は一向に諦めてくれる気配がない。

こちらから振るのは良くないとは言われたが、素っ気なくしても気にしていない様に接してくる。
エルヴィンから誘ったことはないがそれも気にしていない様で、何度断ってもガンガン誘ってくる上に、権力を使ってエルヴィンの休みの日まで把握しているから断りづらい。

なにより今はエレンの巨人実験で金がかかる為、相手側の機嫌を損ねる訳にもいかない。

そして内容が内容だけに、相手の立場もあって誰にも相談できない悩みに、日々頭を抱えていた。