第50話 エルヴィン視点 ページ2
「皆様にご報告があります」
突然彼女の父親がそう言った。
周囲の貴族たちはおろか、晩餐会に参加していた兵士たちの視線がそちらを向く。
どうしたのだろう、と自分もそちらを見ていたら、例のご令嬢が腕に手を回してきた。
彼女はニコッとかわいらしく笑うと、腕を引いて少し前に引っ張る。
そして彼女の父親は言った。
「この度、私の娘と、調査兵団団長エルヴィン・スミス殿の婚約が決まりました」
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エルヴィンは晩餐会の後、ご令嬢の父の待つ個室に呼ばれた。
彼はエルヴィンを見ると「いきなりあんな発表をしてすまないね」と言った。
「…突然の事で驚いています。縁談の話はずっと平行線だったでしょう」
「うむ。それなんだが…娘があまりにも君を好きになってしまった様でね。君から快い返事がもらえない事を知って、熱を出すことがあるんだ」
その発言に眩暈がしそうになった。
もう訳が分からない。
娘が自分の事を好きだから勝手に婚約発表?
意味不明だ。
勝手にあんな公の場でいきなり宣言されてしまったら、それを断る方が彼女の体調が悪くなるのではないか。
「申し訳ないが、今日はきっぱりとお断りするつもりで…」
「分かっているよ。いつも遠回しに断ってきていたのに、気づかないふりをしていたんだから」
彼は残念そうに首を振る。
「だが娘は心の弱い子でな。君と会えなくなる位なら死ぬとまで言っているんだ。…だから、少しずつ距離を取ってあげてほしい」
「…は」
「君が資金目当てに娘と付き合っていたのは分かっている。だが月に何度かベッドも共にしているだろう。そのくらいの情は感じてやってほしい」
「…」
「お互いに利用しあおうということだよ。君は自然消滅を計ってくれればいい。これに付き合ってくれれば資金提供も約束しよう」
エルヴィンは小さくため息をつく。
「しかし…あの様に婚約発表などしたら、期待が膨らむだけで…」
「それはいいんだ。調査兵団団長と婚約まで結んだと言う事実は、我が家のステータスになる」
「ただでは転ばないという訳ですか」
「まあそうなるな。だから表向きは婚約者からスタートしてほしい。いいね」
全てお膳立てされた逃げられない状況は癪ではあるが、今は彼の作戦に乗るしかないのかもしれない。
エルヴィンがとんでもない虚脱感を感じていると、部屋のドアがノックされた。
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作者名:ララ | 作成日時:2021年5月7日 20時