烏の主将に妬きもちの文字は無い。その3 [澤村大地]

そのひゃくじゅうご。 ページ32

いつ誘おう、いつ言おう。




そうして来てしまった四時間目。




まだ言えてません。









『…大地くんに言わなきゃ、大地くんに聞かなきゃ。』


「佐々木ー、ぶつぶつうるさいぞー。」


『え…すいません。』








ダメだ、さっきから教科書の文字が同じに見える。





大地くんに言わなきゃ、って書いてある。





あれ、最初からこんな教科書だっけ？








『…あぁー、あと10分…。』









分かってる、分かってるよ。





大地くんが出て行っちゃう前に声を掛けなきゃ。





中庭に来て、って言わなきゃ。





話があるの、って言うんだから。





やるんだ、やるんだ、A！





灰になってる場合じゃない！








「きりーつ、しせー。れー。」


「「ありがとうございましたー。」」


「んぁー！やっと終わったぁ。」


「菅、腹減ってたんだもんな。」


「んぇ？…あぁ、そうそう！そうなんだよ！」


「じゃあ、食う…」


『澤村大地くん！』


「…なん、だ？」


『お話があるのですが！』


「…A、分かったから静かにな。みんな見て…」


『中庭で待ってるから！』


「えっと…ここじゃ駄目か？」


『駄目。』









さっきまで弁当だ、ってはしゃいでたクラスメイトも。




何かおかしい私たちを見て。




こそこそ言ってる。




…目立っちゃった。








「いつ？」


『昼休憩。』


「って今だろ？」


『うん。』


「約束があるんだが…」


『待ってるから！じゃ！』


「佐々木！？」


「A！」








言い逃げとはまさにこの事で。




廊下も階段も爆走して。




一人で中庭へ。









『…やらかしたぁ！！』








緊張してたにしても。




言い逃げたぁやるね、あっし。




…ふざけてる場合じゃない、大地くん断りかけてたのに。







『…待つし。』







絶対来る。




きっと来る。




恐らく来る。




自信がどんどん無くなって。





ベンチに座って、ため息一つ。






拾ってくれる人はまだ来ない。







『…お腹減ったしなぁ…。』







早く来て、大地くん。





我慢も食欲も限界になるよ。





このままじゃ多分だけど。






泣いちゃうよ。

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