烏の主将に妬きもちの文字は無い。その3 [澤村大地]

そのひゃくよん。　S ページ21

ああでもない。




こうでもない。





そうでもない。








「…佐々木、早く決めなよ。」


『決まんないんだもん！これ？それとも…こっち？』


「どっちも可愛いって。」


『それじゃ決まんないんだよー。』


「…んじゃあ、これは？」


『それは前のデートで着たんだ、だから駄目。』








目の前でうだうだ服を決めてる佐々木。





俺が拾った服はそのまま音も立てず床に落ちる。





そんでまた繰り返し。









「…なぁ。」


『何？』


「ファミレスから帰って来てもう1時間経つべ？」


『嘘！菅くん、大丈夫？』


「俺は大丈夫だけどさ。」


『…ねぇ、大地くんってどっちが好きかな？』


「…こっち？」


『こっち…。でも、こっちはさ、肩で過ぎな気も…。』








…俺、大地じゃないからさ。




分かんないし、てか一番佐々木が分かんないし。





女子っていつもこんなに考えてくれてんの？








「…佐々木。」


『何？』


「大地ん家でごろごろすんだべ？」


『そうだよ。』


「もっとゆったりしてた方が良くね？」


『…菅くん。ナイスアイデア。』


「いや、普通だって。佐々木が大地に可愛いと思われたいのは分かるよ？でもなんていうか、TPO気にしようぜ。」


『厳しいご意見、ありがとう。』


　






疲れたのか佐々木は座り込んで。





俺の周りまで散らかった服をじろり。





…彼女が出来たらこんな感じなんかな。








『大地くんさ。』


「ん？」


『楽しみにしててくれるかな、日曜日。』


「…そうだと思うよ？」


『…あの子、誰かな。』


「あ、あの後輩？気にしてんだ？」


『するよー…。するでしょ。』


「…あの子より可愛くって？」


『…その通り。』









不安そうに笑った佐々木は。





でもさ、って。





菅くんが可愛いって言ってくれたら間違いないじゃん、なんてさ。









「俺、センスないべ？」


『あるよ！文房具とかさらっとかっこいいじゃん。』


「文房具って…。」


『どの服が良い？ねぇ、どれが良いかな？』


「いや…何でも良いって。」


『あ、これを重ねて、そんで…あ、やっぱり…』









俺が切ったスイッチを。





自分で入れてまた服を選びだした佐々木。





仕方ない。








「佐々木。…その服はない。」


『嘘。』


「そうじゃなくて…こっちのシャツを…」








早く家に帰る為、という口実で。




ちょっとでも力になれたら、それで。

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