93 ページ46
遠くの空が花火の煙で曇って見えた。
雨上がりで湿気は多いし、ビル街の室外機のせいで穏やかな気温とは言えなかったけど、何となく居心地はよかった。
屋上の人はあっという間に下りていってしまって、また店内から賑やかな声が聞こえてくる。
どれくらい経ったか、潤くんは何も言わないまま、花火を見るには特等席だったはずの鉄柵に肘を預けながらぼんやり花火が上がった方を眺めてた。
「花火、終わっちゃったね」
「だね」
「…何考えてるの?」
「何て言って指輪渡そうかなー、って」
「えっ、」
私の驚いた顔を見ながら、潤くんがイジワルそうに、けけっと笑った。
「ごめんごめん、困らせたでしょ」
「…なんて答えたらいいか分かんない」
「うん、だと思う」
一通り笑った潤くんは、またビールグラスを煽りながらとっくに消えた花火の方を見つめる。
私はと言えばさっきの言葉に返事できずに胸がドキドキし始めるのを感じてた。
それを見た潤くんがまた、ごめん、と笑いながら、ふいにぽつり、と話し始める。
「付き合った日のこと思い出して、ずっと後悔してた」
「え…、あの、」
「あ、ごめん。付き合ったことを後悔してたんじゃなくて。付き合って、って話にならなかったことなんだけど」
そういえばそうだった。
ついこの前、ハナの話を聞いて同じことを思い出した。
だけどそんなのお互い大人だしよくあることだよ、と言おうとしたところで潤くんの真剣な眼差しに釘付けになってしまう。
ああ、気にしてないフリなんだな、って。
そもそもハナと話した時に思い出した時点で気にしてるんだ、って。
きっとそんなの潤くんにも見抜かれてる。
手元に持っていたほとんど空のビールグラスを奪われて、コンクリの上に適当に置かれる。
「A」
「…はい」
「半年も経って今さらだし、無責任なこと言えないけど。だけど後悔したくらいだから言わせて」
「うん」
「付き合って。すぐにはとは言えないけど、その先も考えてる」
その先、という言葉にいよいよ胸はドクドクと鼓膜の中で鳴っているようで、体中が苦しくなる。
あんなにケラケラ笑ってたクセにサラッとそんなこと言うなんて。
潤くんが憎くて愛おしい。
涙腺はとっくに崩壊して、堪えても拭っても止まらなかった。
耳元でA、と呼ばれて、涙が流れた頰に潤くんの唇が触れた。
目線を下げれば、潤くんの手にはリングケースに入った指輪が光っていた。
944人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なつめ(プロフ) - 真由美さん» はじめまして*お返事が遅くなりましてすみません。お話を気に入っていただいてたなんて、とてもうれしいです*続編、番外編、書けたら書いてみたいです!お約束はできないのですが、少しずついろんなお話を書いていきたいと思ってます* (2016年11月15日 1時) (レス) id: d97a9250d2 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - みやこさん» はじめまして*お返事が遅くなりましてすみません。お話を楽しみにしていただいてありがとうございました*優しい潤くんに甘やかされるだけでとろけちゃいそうですよね(笑)次回もがんばります*ありがとうございました! (2016年11月15日 1時) (レス) id: d97a9250d2 (このIDを非表示/違反報告)
なつめ(プロフ) - 美紀さん» こんばんは、お返事遅くなりましてすみません。おかげさまでようやく最終話を迎えました*潤くんのお話も翔さんのお話もたくさん読んでいただいてありがとうございました!とても幸せです* (2016年11月15日 1時) (レス) id: d97a9250d2 (このIDを非表示/違反報告)
真由美(プロフ) - はじめまして。毎回キュンキュンしながら読ませていただいていのでもう終わりだと思うと寂しいです。潤くんの小説他より少ない気がしていたため気に入った小説に出会え嬉しかったです。もしよろしければ続編、番外編をお願いしたいです。次回作も楽しみにしています。 (2016年11月9日 20時) (レス) id: b6bccf650d (このIDを非表示/違反報告)
みやこ(プロフ) - 初めまして!毎週更新されるのを楽しみにしてました。気持ちを隠さなくなった潤くんの甘さにキュンキュンしながら、もう終わりなんだなぁって寂しくなってました。長い間お疲れ様でした。次回作も楽しみにしています! (2016年11月6日 23時) (レス) id: ec4065a8bc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なつめ | 作成日時:2016年6月4日 21時