【歌い手】また明日、泣きに来よう (ページ17)

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AfterStory～好きだった～ページ17

私だって、無理やり奪うなんてことをするつもりはなかった。

最初こそ、少し押したら付き合えるかもなんて思った。
だって、なんて言ったら言い訳みたいだ。
私は、まふくんが好きだった。
兄に付いて行った現場で談笑しているまふくんから目が離せなかった。
一目惚れだったと思う。
兄を通じて、彼女さんがいることも知った。
最近、あまり会えてないって聞いたからもしかしたら、なんて淡い期待を抱いた。

案の定、少し脅しのようなものをかければ一発。
瞬く間にまふくんは私の彼氏へとなった。

だけど、違った。
私はまふくんを悲しませようとしたわけじゃない。
そりゃあ、奪った時点で悲しませているようなもんだけどそれでも、悲しませたくなかった。
まふくんは彼女さんのことをずっと愛している。
私が入ることは出来ない。
だから、彼女さんに言われた時。
普段だったら意地でも残り続けたと思う。
でも、悲しそうなまふくんを見てたら、そんな馬鹿みたいなこと出来なかった。

好きな人を悲しませるなんて馬鹿みたいだな。

ここ数日の日記を振り返り、私はそう呟いた。
なにがしたかったのだろうか、分からない。
自分の数日前の行動がわからないなんて記憶欠けすぎとか思う。

「胡桃ー？出かけるー」

「はーい！今行く！」

兄の呼ぶ声に返事をした。
パタンと日記を閉じ、引き出しへと仕舞う。
鍵をかけてバレないようにした。

「ごめんなさい。大好きでした、まふくん」

日記に言うように。
そっと声をかけた。

まふくんの彼女さんが言うように、私ならいい相手を見つけられる。
そう思い、パーカーを羽織って部屋を出た。