【歌い手】また明日、泣きに来よう (ページ1)

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あれはある雨の日だった。
偶然、彼氏が親友と歩いているのを見つけた。
ただ、たまたま出会っただけとか考えたけれど論より証拠。
観察を続ければ2人は手を繋いでいた。
確信に辿り着いた時、不思議と哀しみなんてなかった。
ただ、こんな人らと今まで仲良くしてだなって虚しく感じただけだった。

自然と笑いがこみ上げてきて差していた傘を放り投げて雨の中をがむしゃらに走り続けた。

「はぁ……っ！」

怒りが今更ふつふつとこみ上げてくる。
バカみたいだと嘲笑した。
浮気をした彼氏も、付き合っていると知っておきながら一緒にいた親友も、2人に騙されてへらへらと媚びをへつらっていた私も全員バカみたいだ。

それでも、大好きだった。
サラサラの髪も、真っ直ぐな瞳も、綺麗で透き通った耳に残る声も、私をお姫様のように扱ってくれたことも、目を閉じれば蘇ってくるのは楽しかった思い出ばかり。
走馬灯のように流れては消えていく思い出を一つ一つ大切に心に残しておきたい。
いや、一生残るだろう。消したいと思っても、それほど彼が大好きだったから。

「好きだよ……まだ大好きだよ……！」

神様なんて存在するのだろうか。
昔、彼が私に聞いてきた。
私は人によって違うと思い考える人にとってはいると答えた。
なのに、彼は私に出逢えたのが神様のお陰、だなんて言葉を言ってきて、ドラマで似たようなセリフを見た時には引いたけど彼のときだと嬉しかったのをまだ覚えている。
だから、私だって神様がいるって信じたかったのにこんなのが起きたら神様なんかいないって思うじゃない。

「Aっ！」

雨の音に紛れて聞こえた声は、私のことをまだ好きだって思ってることにしてもいいですか？

こんな状況の私が彼に合うとは考えられない。
雨の音で聞こえなかったフリをして家まで逃げるように走った。