怒りを携えた人 ページ22
彼らが去って、気まずい雰囲気の中で、たった一人。
そうだ、今から契約延長の返事をしようとしていたんだった。
しばらくその場に立ち尽くし、ようやく練習室を抜け出した理由を思い出して足を進めようとした瞬間、
私の目に飛び込んできたのは、目をギラギラと光らせたユンジさんの姿だった。
「・・・どういうこと」
静かに、でも確かな怒りを携えたその声。
「なんで、あんたなんかが・・・っ!」
鞄を投げ捨て、髪を振り乱し。
突然全身で掴み掛かられて、何が何だか分からない。
「契約延長なんて、」
その華奢な身体のどこにそんな力を隠していたのか。
ユンジさんは、ぶんと私を床に突き飛ばすと、冷たい目で私を見下ろした。
「そんなこと、絶対にさせない」
その言葉を聞いて、彼女がその情報網を用いて、私の契約延長の話を聞き付けたんだ、ということを理解する。
ユンジさんは投げ捨てた鞄を拾い上げると、中から何かを取り出し、勢いよく私に投げ付けた。
ガツン、と大きく音を立てて腕にぶつかった何か。
鈍い痛みが、ジンジンと腕に広がっていく。
彼女に投げ付けられたのは、一台の携帯電話。
私が拾うまでじっと待っている所を見ると、その画面の中に、おそらく私に見せたいものがあるんだろう。
痛む腕を抑えながらそっと携帯電話を拾い、画面を見てみると、そこに映っていたのは、あの日の抱き合っていたヒョクと私だった。
「あんたなんか、何の努力もしてない癖に、」
ギリッと奥歯を噛みしめるように言葉を吐き出すユンジさん。
不思議と、先程まで感じていた恐怖はもう感じなかった。
「あんたがいつまでもオッパの周りをうろついてるから、だから、オッパは、」
鋭く刺さる視線も、もうちっとも怖くない。
なぜなら、彼女の瞳は、今は怒りではなくて悲しみに満ちていたから。
「・・・ユンジさん」
そっと声を掛けると、彼女はビクリと肩を震わせた。
「それは、ヒョクとあなたの問題だよ。私には関係ない」
火に油を注ぐことを言っていることは分かっていた。
でも。
ヒョクは、いつだってユンジさんと真っ直ぐに向き合おうとしていた。
ー見ている方が辛くなる程に。
彼の、そんな素敵な所を、怒りや悲しみに任せて忘れて欲しくはなかった。
キッパリとそう告げると、ユンジさんは一瞬だけ悲しそうに顔を歪め、そしてまたすぐに気を取り直したように目を吊り上げた。
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ななか - 突然すみません!最近読ませていただいてます!ついつい読見入っててしまいます!続きがとても気になります!更新楽しみにしてます! (2014年11月14日 10時) (レス) id: e31223459f (このIDを非表示/違反報告)
k(プロフ) - 更新ありがとうございます!!楽しみにしてます! (2014年10月25日 13時) (レス) id: 2c49601377 (このIDを非表示/違反報告)
リンゴ - ずっと以前から読み続けています。毎回引き込まれています。更新が楽しみでいつも待っていました。長く続けて欲しい作品です。 (2014年10月25日 11時) (レス) id: ef41c44d6b (このIDを非表示/違反報告)
まんぼー(プロフ) - ウネの切ない感じが、白日夢の曲の感じにピッタリだわ~!と泣きながら読んでましたwが…やっぱりトゥギひょん!男前ですね!それでこそリーダーだわ!みんなが幸せになってくれたらいいなぁ…続きお待ちしてますね (2014年10月25日 2時) (レス) id: 05377478b6 (このIDを非表示/違反報告)
みなチキン(プロフ) - 更新楽しみにしてますpq (2014年10月4日 8時) (レス) id: 335d4b0d2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くまこ | 作成日時:2013年8月5日 23時