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第四場 ページ5

夜の街道、もはや星も見えず、風ばかりか雨まで降る。
シュタール夫妻、全身濡れた姿で登場

レイチェル あなた、行くあてはあるの?

シュタール もちろん。あてもなく走り回るほど私の人脈は狭くないよ。向こうにユダヤの大富豪のゴールドシュタインと言う人がいる。彼の家は迷宮と言われるにたるほど広い、多分、ナチさんに見つかるより、外へ出ていけるかの方が重大になるくらいにね。さあ、急ごう。

レイチェル 待って、その人が目をつけられているということはない?

シュタール ふふふ、むしろその逆さ。私より人付き合いが上手いのだろうね、なんせナチの幹部の中でも相当な大物と関係があるそうだ

レイチェル 逆に危険じゃないの? ひょっとしたら捕まって、ナチスに引き渡されるかも

シュタール はあ、あんまり苦労を取り越さないほうがいい。同じユダヤ人同士、売るようなことはしないさ。商売は信用第一だからね。

二人、退場

ゴールドシュタイン邸の前 宮殿のような豪邸に、端の見えぬ広い庭。
ゴールドシュタインが傘を差しながら登場。

ゴールドシュタイン おや、シュタールさん。何の用ですか、傘もささないで。頭から靴の先までびしょ濡れで、ひょっとして家のシャワーでも壊れたのですか。残念ながら私の家は脱衣所ではないですよ。お引き取りください。

シュタール 冗談を言っている場合ではないのです。差し迫った状況なので詳しくは言えませんが、どうか一夜の宿をお貸しください

ゴールドシュタイン 事情など結構ですよ。もう存じ上げております。

シュタール ならば話が早い。どうか、お願いします。

ゴールドシュタイン お断りです。ご自分の責任でしょう、ご自分でなんとかして下さい。さ、お引き取りを。

シュタール (動揺して)そんな、同胞じゃないですか。お礼はいくらでもします。

ゴールドシュタイン シュタールさん、あなたは何か勘違いしていないか。この世にいるのは、自分か他人だけ。そしてあんたは他人だ。他人のために危険な目にはあいたくないのでね。さあ、ベルリンに帰られたらどうかな。死のカーテンの向こう側で同じベルリンの「同胞」が慰めてくれるだろう。

シュタール 同じ木からできたりんごでも育つ土が違えば酸っぱくも甘くもなる。人も全く同じようで。(声を潜めて)無論、あなたは後者だ。(声高に)ウィーンは文化的とは聞いていたが……人はそうではないようですな。

ゴールドシュタイン うるさい、とっとと帰れ。

三人退場。

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断章(プロフ) - Sike!さん» ご高覧ありがとうございます。このサイトには戦争物が少なく、需要があるかどうか不安でしたが、そのような感想をいただけて、安心いたしました。重ねて御礼申し上げます。 (2020年3月27日 20時) (レス) id: e3fb801185 (このIDを非表示/違反報告)
Sike!(プロフ) - コメント失礼します。戦争を題材にした小説は大好きなんです……まさかこのサイトで出会えるとは思ってもみませんでした。登場人物のキャラクターが際立っていて、セリフの苦手な私には羨ましい限りです。お話の続きを楽しみにしております。 (2020年3月27日 6時) (レス) id: b8651e6ca0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:断章 | 作成日時:2020年3月27日 0時

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