胃袋は掴まれた (ページ8)

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ドヨルは洒落めいた４ページ8

「あと冷蔵庫のサラダもね」
「何でタッパー」
「俺が持って帰るの」

知らない間に背後に立っていた増田さん。もしかして明日の晩ごはんにしようと？一人暮らしならそうしたい気持ちもわからなくない。

勝手に納得をして、タッパーにブルスケッタとサラダを詰めた。サラダは買ってきたときに言っていたいちじくと生ハムを和えたイタリアン風だった。最高なの？

成亮はフライパンにさっきのタラを入れたらしく、今度はせっせとフルーツを剥いている。

「そんなにフルーツ切るの？」
「今になって缶詰でよかったなと思い始めてる」
「余りそうならそれも貰おうかな」
「いいよ、タッパーいっぱいあるし」

全てのフルーツを切り終えてタッパーに詰めたところで、フライパンの中身を確認した成亮は「いいねえ」とつぶやいた。どうやらうまくいったらしい。

「それフライ？」
「フライっつうか香草焼き」

一丁上がり、とタッパーの空いたスペースにできたての香草焼きが詰められる。ちょっと高いイタリアンのテイクアウトメニューみたいなタッパーだ。

「じゃあ俺はこれで」
「え？帰っちゃうんですか？」
「ワインありがとうね」
「うん、お邪魔しました」

タッパー2つを紙袋に入れたと思ったら颯爽と部屋を出ていくので、慌てて背中を追いかける。

「あの、」
「シゲが作ってやるから帰れって言うの」
「ええ？」
「Aちゃんと2人でゆっくりしたいんでしょ」

わかってあげないと可哀想だよ、って最後に爆弾を渡して帰ってしまった。2人でゆっくりしたいのか。夕方まで2人でうだうだ寝ていたのに、まだ2人で。急に愛おしさが込み上げてきて、思わず緩んだ顔をしてしまった。

部屋に戻ると、テーブルにはきちんとそれらしく盛り付けられた料理の数々が並べられていた。ぐう、とお腹の底から空腹のサインが出た。

「で、これが増田さんにお願いしてた白ワイン」
「高そうな……」
「そこまでじゃないけどね、美味しいのよこれ」

いつもは使わない、少し良いグラスに白ワインを注ぐ。炭酸が入っているようで、シュワシュワと気泡が上昇する。色鮮やかな食卓に映える透明度の高いお酒に気分も高揚してきた。

「何に乾杯？」
「2人でゆっくりする夜、でしょう？」
「聞いたの？」

恥ずかしがりながらもグラスを合わせる彼は、どこか嬉しそうで、やはり顔が緩んでしまった。