胃袋は掴まれた (ページ10)

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ふたりは煌めいた（sp:tm）ページ10

夜ご飯作らなくていいよー、と連絡をよこしてから帰ってきた貴久の手には彼のものではない大きなトートバッグがあった。あんなバッグ持ってたっけ？私はソファーに沈んだまま、彼の動向を目で追っていた。

「買ってきたの？」
「ううん、シゲにもらったのー」
「納得した」
「頼まれてたものを家まで届けたら、お礼みたいな感じでもらった……というか押し付けられた」

話に納得しながらトートバッグからタッパーを出すと、中にはぎっしりと料理が詰められていた。豪華すぎる。私の料理スキルとは比べられないぐらいだ。

「これは……料理の名前忘れちゃった」
「名前がわからない料理作れるの」
「Aもたまに作るじゃん、名前わかんないの」
「あれは名前がないの」

残り物で適当に炒めたやつとこれは全く違う。ああ、加藤料理教室に通いたい。それで貴久にもっと美味しい料理食べさせてあげたい。今のままでも美味しそうに食べてくれるけれども。

お腹が空いていたので、早速料理をお皿にのせる。なんかテンションあがる。デパートでお惣菜をたくさん買ってきて贅沢してる気分に似ている。

「ワイン飲む？」
「珍しいね、ビールじゃないの？」
「さっき頼まれついでに買ってきたんだよね」
「頼まれごとってお酒だったの？」
「そう、自分で買いに行けよ！って思ったけど」

文句を言いながらもそんな気にしてなさそうな顔。さては頼られたの嬉しかったな？しかも買ってきてくれたものもちょっと高そうで、美味しいだろうことが一目でわかる。

「はい、座ったらこれ持って」
「ありがとう、いつの間に」

手渡されたグラスにはもうさっきのワインが注がれていて、芳醇な香りがふわりとした。いつものように向かい合わせで座り、小さく音を重ねて乾杯をすると、貴久がなぜか少し笑った。

「なあに」
「なんかこんな夜もいいなあって」
「そうだね、この量の料理は助かる」
「そうじゃなくて」

貴久の手はバゲットに伸び、そのまま私の口元まで運ばれる。戸惑いつつも口を開けたら、満足げな顔をする。「2人のためだけの贅沢も良くない？」って、そんなの私だって思っていた。

口の端についたであろう、トマトとガーリックは甘酸っぱくて癖になる味だった。