胃袋は掴まれた (ページ3)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:12,134 hit

和はみだされた３ページ3

それから今日の仕事の話や週末の予定といった他愛もない話をして、楽しくご飯を平らげていく。

今日のお昼に昨日のご飯の残りを詰めて持っていったら、先輩に「それどこの冷食？美味しそう」と言われたことは言わなかった。冷食も美味しいけれど、成亮の作るご飯には到底敵わないもんね！とお腹の底がぐらぐらしたのだった。

私が話すたびに、へえとかふうんとか興味があるんだかないんだかよくわからない相槌を打ちながら聞き手に回る彼の皿はもうすぐ空になりそうだった。

「私洗っとくよ」
「フライパンとかもあるしいいよ」
「いいって、私もうお風呂入ったから」
「そう？じゃあ頼もうかな」

成亮の最後の一口はカボチャだった。カボチャも甘辛く煮てあって絶品だった。これは本当にお店で出せると思う。食べるたびに毎回思う。出汁もちゃんと効いてるし、煮崩れもしてない。

もし成亮が料理教室とか開いたら、顔の良さも手伝って受講者たくさん来ちゃうだろうな。人妻がたくさん。うう、絶対開かせない。絶対良くない妄想をしてしまう。

お風呂に向かった彼を目で追いながら私も最後の一口を胃に収めた。今夜も美味しかったです。毎日こんな食事ができるなんて幸せものだな。

お皿たちをシンクに持っていき、腕を捲った。そうだ、私はこうやって汚れを落として元の色にリセットしていく作業が好きなんだった。

洗剤をこれでもかと泡立て、皿をまっさらに戻していく。あ、ダジャレみたいになっちゃった。でもこの作業が好きで、体力的にしんどい清掃のバイトも続けられていたし、今も念入りな家事ができている。真っ白にしたいわけではない。元々の色に戻すだけ。

お風呂の方からムワッと湿気がこちらへやってくる。もうシャワー浴び終えたの？夏になると烏の行水がさらに短くなる。今日の夜長は何して過ごそうかな。

蛇口を捻り、泡を洗い流していく。今日の昼に言われた先輩の言葉も一緒に排水溝へ流してしまう。水流が渦を作って見えなくなっていくのをじっと見てしまった。

きっと先輩も悪気はなかったのだと思う。だけど、成亮がお弁当用にと多めに作ってくれた目に見えにくい愛情が詰まっているんだもの。やっぱりあと少しだけへそ曲げてもいいかなあ。

全ての皿とフライパンと鍋を拭き上げ、シンクとコンロも拭いたところで、成亮が戻ってきた。