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｢っ…｣
もう痛みなんかないはずなのに思わず膝を押さえた。膝も、膝を押える両手も震えていた。額には脂汗が滲んでいる。もう数年が経つというのに思い出すだけでこのザマだ。
外を見れば彼が輪を抜けだしてどこかへ行こうとしているところだった。別に経験者として偉そうに説こうと思ったわけじゃなかった、ただ、ただ
こんな、
こんな思いを彼にはして欲しくなかった。
自分みたいになって欲しくなかった。
その一心で、
気づけば足が動いていた。上手く走れない、呼吸もままならない。だけど足は彼の元へ動いていた。
｢…っくそ｣
上履きのまま駆け出した外。彼が向かったであろう方向へただ走った。ふと聞こえた悔しそうな、辛そうな声。なんとなく聞いたこともない彼のものだと分かった。
｢い、いた…！｣
｢！？だ、誰やお前！｣
｢あ、あの…っ…ごめ、｣
｢とりあえず落ち着いてや｣
｢ん…うん｣
ずっと遠くから見ていたから、そういえば間近でこの子を見たのは初めてだということに気づいた。幼さも残っているがかなり整っている顔、細身に見えて結構がっしりしている体、汚れているユニフォーム、至る所にしてあるテーピングからは努力の跡が垣間見える。
｢落ち着いた？｣
｢うん、もう大丈夫｣
｢んで、何？俺あんたと面識ないはずやけど｣
｢ないね。あたしは知ってるけど…学年も違うし君はあたしを知らないでしょうね｣
｢ほな何？｣
｢単刀直入に言うね。…君どっか怪我してるでしょ｣
｢…怪我は数え切れんくらいしとるわ！見てみいこのテーピングの数｢そーじゃなくて｣…っ｣
｢どこか庇ってる。動きがおかしかったもん｣
｢な…なんで知ってっ…｣
｢ずっと見てたから｣
｢は、ストーカーかよ。怖いんやけど？｣
｢なんと言われてもいい。ただ…こうはなってほしくないだけ｣
そう言って見せたのは未だ微かに震えが残る右膝、にある大きい傷跡。馬鹿な過去のあたしの、後悔。
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作者名：みひろ | 作成日時：2023年3月7日 10時
