儚く、甘く、…繋ぐ。【5】［Reo.S］

彼のために 3 ページ23

.

.

母『…説明してちょうだい。
どこでどうなるとあんなに辛そうだった病人が
公衆の面前でラブシーンして、写真撮って、
先方さんから連絡もらう羽目になるの？』



…あぁ、無理だ。

私、上手い言い訳とか出来ない…



『…あの、…すみません。……ごめんなさい。
あの、あの、あの後っ！体調良くなって！
うん、…で、少しだけ出て…』


母『へぇ〜、で？』


『ら、ライブに行きました…。』



翌朝、私のベッドですやすやと眠る

玲於の寝顔にデレデレと癒されてから

幸せな気分で迎えの車に乗り込むと、

恐ろしい顔をした母からカミナリが落ちた。



母『…昨日、佐野君が身に付けてたブランドや
メーカーに慎重に交渉したらしいわよ。
その中に、それなら彼をイメージモデルに
起用したいって言ってくれた所があったって。
そのお陰で、今回は何とかなりそうだけど…。
…A、何ですぐ連絡しなかったのっ？
こっちは知らないまま迷惑だけ掛けて…。
そういう感覚が鈍すぎるよ！』


『…そうだよね、…本当にごめんなさい。』



今日、言おうと思ってたんだよ、本当に…。



彼の事務所は、昨夜すぐに動いてくれていた。


奈々さんが撮ったわたしたちの写真は

彼らの事務所経由でメーカー側に持ち込まれ、

数店舗のみに掲示される小さなポスターとして

すでに採用される運びになっていた。



母『…あちらも謝ってくださったけど、
お詫びも兼ねてウチもノーギャラですから。』


『…迷惑かけて、ごめんね。』



母『…次は無いからね！
ただ、…画像データだけもらったけど、
…そりゃあもう、すごく良い写真でした。
Aが写真集でも出す事になったら、
載せたいくらい。…ほら。』



母がチラッと見せてくれたタブレットには、

幸せそうに玲於と見つめ合う私がいた。



母『…ただ、全ての人が受け入れてくれる
訳じゃないよ。…これから、叩かれる覚悟も
忘れないようにね。』




…数日後


ポスターが店舗に貼られるより先に、

ネット上には店の外から撮られたと思われる

隠し撮りが数枚上がった。



どれも画質が悪くて

わたしたちと断定は出来なかったけれど、

ポスターに採用されたものよりも

ずっと濃密な場面だった。


.

彼のために 4→←彼のために 2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す