1 ページ1
昼食を終え、医局に戻った私は、机に張りついてパソコン画面と睨めっこをしている同僚の背中を見て、小さくため息をついた。ここのところオペが続き、ほとんどの時間をこの病院で過ごしている天堂浬。家にもあまり帰っていないようで、昨夜も医局のソファで寝ていたようだという話を、今朝同じく同僚である来生晃一から聞いたばかりだ。もちろん、自分も同じような経験がないわけではないが、それにしたって彼の場合は、その回数が多い。私は彼の隣にある自分の席に向かうと、机の上に置いてあったファイルを手に取った。
「天堂先生、これこの間、頼まれてた資料」
パソコンに向かっていた彼の目が、ちらりとこちらを見たかと思うと、私の手元にあるファイルに移る。
「ああ。悪いな」
「あと、こっちの資料も参考になるところがあると思うから、よかったらどうぞ」
浬は手渡した資料をぺらぺらとめくりながら、「助かる」と言った。私は「どういたしまして」と返すと、イスに腰かけて彼と同じようにパソコンを開く。パスワードを入力したあと、デスクの引き出しを開けたとき目に入ったチョコレートの包み紙。私はそれを一つ取り出すと、またパソコン画面と睨めっこをしている彼に差し出した。
「なんだ？」
「あげる。疲れ、溜まってるみたいだから」
私がそう言うと、彼は真顔でこちらを数秒見つめた後、はぁと大きなため息をついて私が持っていたチョコレートを受け取ってくれた。
「……ただの睡眠不足だ」
「でしょうね。ここのところオペ続きで家にも、あんまり帰ってないんだって？ 晃一から聞いたよ」
「あいつ……」
そう言いながらチョコレートを口にする彼に、クスリと笑いがこぼれる。
「晃一も心配なんだよ、浬のこと。いい同期に恵まれてるよね」
私がそう言うと、呆れた顔でこちらを見てくる。それはもちろん、私が言った「いい同期」に私も含まれているからだろう。
「バーカ」
もう何度聞いたかわからないその言葉に、私はいよいよ笑うのを隠せなくなってしまう。
彼と一緒に過ごすようになって早数年。一緒にいる機会が多い彼のことは、少なからずわかっているつもりだ。最愛の恋人が亡くなったときに、彼が悲しみに更け、もがき苦しんでいる姿を、私はいつも側で見守ってきた。同期だからこそ強く言えることもあるけれど、私には彼に言えないことが一つだけある。
出会ったときから、ずっと好き。
それは同じく同期の晃一にさえ言ったことのない、私の思いだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 121人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
moeka(プロフ) - 更新がなくて寂しいです。更新してくれたら嬉しいです。待ってます。 (2021年1月1日 8時) (
レス) id: d61ed9781e (このIDを非表示/違反報告)
HIKARU(プロフ) - 天堂先生の漢字間違ってます (2020年4月28日 14時) (レス) id: eab8b332b2 (このIDを非表示/違反報告)
雪菜(プロフ) - 、さん» ご指摘ありがとうございました。初めての投稿で、きちんと規約を確認せずに作品を作ってしまったことを反省しております。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。 (2020年4月23日 18時) (レス) id: d41278724c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雪菜 | 作成日時：2020年4月17日 16時
