Fate /GreenBloody III

深淵:10 ページ14

親指で目尻を拭ってやれば、今度は其の手を拒まなかった
俺を見上げて…歪に、不完全に

けれど、それは紛れも無い…心からの笑み


「…ありがとう、ロビン」


目に涙を浮かべて、穏やかに言う主人を…俺はもう一度抱き締めた


ーーー


弱音を吐いて、涙を見せて、全てを吐き出した主人は疲れたのか…布団に入った途端寝てしまった

ベッドに腰掛けて、俺は主人の髪を梳く


"死ぬのも、殺すのも…怖くて仕方なくて…っ！"


ロ「…そうだよなぁ」


この人は魔術師では無いのだ…少なくとも、俺の知っている魔術師では
彼女は唯の人として生きて来た。衰退しきった魔術師の家系、そこから受け継がれたのか類稀なる魔術の才
しかし生まれたのは少し裕福なだけの普通の家庭

この人に魔術師の冷酷さは無い。魔術師としての心得も知らない。学んでいないのだから当然だ
守る家も血筋も無い…この人は紛れもなく、あのセイバーのマスターと同じ一般人なのだ


血の枷も何も無い、自由だった筈の未来を壊されて…未来に何も見出せなくなってしまった
そして奴等を討ち取る以外に、何もなかった…見つけられなかった


もしも親の何方かが生きていれば、使用人の1人でも生き残っていれば


ロ「いっぺんに無くさなけりゃ、普通に生きていけただろうになぁ…」


きっと、紅月の時から……この人の心は壊れ始めていたんだろう
人を手にかけて、正常なこの人の感覚が…其れを良しとしなかった

生まれた罪悪感を秘めたまま、いつも木刀を振るっていたんだろう


高嶺という直接的な復讐相手を葬った事で、一度己の行動を見つめ…罪悪感が優った

いや…高嶺に何か言われたのも、理由の一つだったのかもしれない


一歩間違えれば…この人は堕ちていたかもしれない





何故、気付いてやれなかったのだろうか



あのランサーの言葉が蘇る

"けどよ…このままだとあの嬢ちゃん、その内壊れるぞ"

その通りになってしまった



もっとしっかり、この人を見ているべきだった


いや……出来なかった。向き合ってしまえば、認めてしまえば…



「……ん……ロビン…」


ロ「…はい」


「朝まで、側に…いて……」


ロ「…俺で良ければ」


寝ぼけているのか、時々聞き取り辛い。焦点の合わない瞳が俺を見上げて、ふにゃりと笑う


「…きみが、い…んだよ…」

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