・ ページ38
自然と相手側のベンチへと視線を向ける。
ベンチに座るディラン君と話すマークが見えて少しだけ見つめていたら、彼が視線に気付いたのかこちらに向かって歩いて来た。
「わ、A先輩も行って来たらどうですか！？」
「えっ…う、うん」
春奈ちゃんに押されながら席を立ち、両チームのベンチの境目辺りで向かい合う。
首にタオルをかけたままで、まだ首元に汗が残ってるのを見ても、いかに激しい試合なのかが改めて分かった。
「前半戦、お疲れ様」
「ああ。やはりイナズマジャパンは手強いな。特にキャプテン…円堂はすごい」
「でしょう？後半戦はもっと手強いと思うよ」
「だろうな。気を引き締めてかからないと」
そこでふと彼の顔を見てみる。
マークは多分、一之瀬君の事を知らない…
恐らくこの試合が終われば、マーク達他のユニコーンメンバーも知る事になると思うけれど…
「ん？どうかしたか？」
「え…？」
「暗い顔、してるぞ」
私の頬に優しく触れた大きな手。
彼に心配そうな顔をさせてるのは、紛れもなく私のせい。
余計な心配をかけて、彼にまで不安にさせる訳にはいかないよね…
「ううん、何でもないの。あ…そろそろ後半戦が始まるね」
「…そうだな。これでいよいよ結果が決まる。俺達も全力で勝ちに行くからな」
手を軽く振り合って、お互いチームの場所へと戻る。
…正直なところ、好きな人に直接応援の言葉を掛けられない事に少し寂しさを感じたり。
でもここはグッと我慢。
もう覚悟はとうに決まっているのだから。
だけどせめて…心の中だけでは、彼の事も応援していたい。
ベンチに腰を下ろした時、秋ちゃんが戻ってきた。
その顔はさっきと違って、かなり落ち着いた顔をしている。
「おかえり、秋ちゃん」
「ただいま。…一之瀬君と話せたよ」
彼女はその時の事を話してくれた。
途中、円堂君が聞いてしまっていたらしく、彼も一之瀬君の事を知ったらしい。
けれど、二人ともこの試合にかける思いは変わらなくて。
全力で挑みにくる一之瀬君を、円堂君も全力でそれに応えようとしてる。
その話を聞けただけで、私はもう十分だ。
「だから… Aちゃんが言ってた通り、最後まで見届けるわ」
フィールドに向けられた彼女の瞳には強い意志が宿っている。
さっきまでの大きな不安は、そこにはもうなかった。
私もうん、と頷いて後半戦が始まる合図と共にフィールドに目を向けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：結川 | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/17663132
作成日時：2021年8月20日 7時
