雨宿り@fj ページ4
「どうしたの？」
「…別に。帰りたいんだけど、傘貸して」
目を合わせず答える。これ以上話したくなくて、でも隣にいたくて、よくわからない。思わず冷たくなってしまう。
「……、A」
ざぁ、と、雨がひどくなった気がする。まるで私の心みたいだ、なんて詩人みたいな事を考えてみても、この想いが消える事なんてなくて、むしろだんだん積もって行ってる気がする。フジに呼ばれた名前はあえて無視。
「何を考えてるかわからないけど、俺、少なくとも何も思わない相手と相合傘しようなんて思わないし、雨宿りしてるのを見つけても無視するよ。」
「………うん、」
それは、フジから少しは好かれている、ということで良いのだろうか。出来ればもっと好いて欲しいと思うけど、欲張ってはいけない。彼を好きな人はたくさんいるし、彼から好いてもらえるんてことを、喜ばなければ。
「はぁ…。こっち向いて？」
「やだ」
今フジを見てしまうと、泣いてしまいそう。それならこの雨の中飛び出してみようか。きっと泣いてることに気付かれない。そんなことを考えていると、頬に暖かい感触が。そのまま顔を動かされ強制的にフジを見ることとなった。そして気付く、頬にあるのはフジの細いけどゴツゴツとした手であると。
「A、俺、そんな顔されたら自惚れるよ？」
そんな顔ってどんな顔だよ。なんで、自惚れるなんて言わないで。どうせ女ったらしのフジはいろんな女の子をこうやって落としてきたんでしょ。
「な、にが」
出た言葉は掠れていて、きっと彼の耳に届くことはないだろう。それ程雨の音が大きくなっているし、そんな漫画や小説みたいに2人だけの空間みたいなんてこと起きやしないのだ。ここはリアル、現実なのだから。だから、漫画や小説じゃないから、きっと私の望むようなことは起きない。
そう、思ってた。
「…ん、っ！？」
一瞬遅れて反応する。気付いた時にはフジのどアップで。むしろ近すぎて顔が見えない。そして離れていくフジ。短い間のあの距離はもうない。あるのは目の前で微笑むフジだけ。他のものなんてもう私の目に入ってこない。
「A、好き」
雨の音はもう聞こえなくなっていた。
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雨宿り/津紀
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