【プロセカ】ストリートで歌っている推しがユニットを組んだ

５ ページ31

.



「つっかれた、身体バッキバキやな……」


PC画面には投稿完了の文字。金曜日の夕方から部屋に籠って、風呂以外の目的でこの部屋の外に出ることは無かった。ここ最近ずっと手かげていた曲がようやく完成したので、何度もズレや妥協がないか、今の自分の中で最高傑作に足るものかと確認してから、『Aruta』のチャンネルに曲投稿した。
あと毎度悩むのが動画とボーカルである。自分の曲の世界観にもっと作曲以外が生み出せる奥行きをつけたいけど、自分には如何せんその能力は足りていない。なら他に頼めばいいとはわかっているが、どうしてもその1歩は踏み出せない。顔も名前も知らない人に頼むのは少し抵抗感があるし、何より雇うなら自分の世界観をウンと汲み取って理解してくれる人がいい。こっちが注文した内容をこなしただけの薄っぺらい作品は嫌だ。より深く汲み取って、より鮮明に表現して、そうして付き添ってくれる人。＿＿＿＿理解者になって欲しい。
そういう想いもあるはずなのに、誰もを信じることができないから。誰の手を借りることもできずに1人でここで足踏みしてる。
ボーカルも本当は人の声を使う選択肢を得たい。機械音声が淡々と歌うことでイメージが完成する曲もあれば、肉声が感情的に歌ったり、繊細な表現をすることで完成する曲もある。
しかしAにとって、対人コミュニケーションをすることによって選択肢を増やすことは非常に難しいことだった。人と喋って、違和感を持たれることが嫌だ、……『そういう人』だって『病気』だって思われるのが嫌だ。

SNSにも告知を投稿する。と言っても、動画URLだけ貼って投稿するだけなのだが。告知を投稿すれば、通知設定しているのであろうファンのアカウントからの反応が即座に来て、リプライが飛んでくる。リアルタイムで飛んでくる反応に見向きもせずに、投稿を終えたらすぐSNSを閉じた。



「日曜か……」



気付いたら日曜の昼過ぎだ。パフォーマンスが落ちては元も子もないので適度に睡眠は取っていたけど、あっという間に2日近く経っていた。一段落付いて落ち着いたし、明日はクラスに登校しようかな……。
投稿された動画を確認する。曲は既に1万再生を超えていた。何日もかけて調整した、洗練された音の重なりとメロディライン。俺が作った、俺のための曲。イメージの通りに完成した。寧ろ想像してたよりもずっと良い。今俺が作れる最高傑作の筈だ。

それを作り出したのに、なんで俺はずっと満たされない。


.

６→←番外編4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す