ツキノヨニ (ページ3)

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朝から不穏なニュースが流れていて、Aはまた気分が上がらない一日の始まりを迎えることになった。

「Aちゃーん」

そんなAの異変にいち早く気が付いた海人は、自分の机で頬杖をつくAの顔を窺いながら声を掛けた。

「……あ、おはよう海人くん」

顔を少しだけ海人の方へ向けて挨拶をするAだがその目は若干虚ろである。

「おはよー。絶対なんかあったでしょ」

海人はまるで探偵が確信的な真相を見つけ出した時のように自信満々の顔でAに聞いた。

「うん。そうだけど、私だけでもないと思うんだよね。海人くんは今日のニュース見てないの？」

「あー、俺いつもギリギリに起きてるから見る時間無くて」

「そうなんだ。このニュースは今日だけじゃなくて3週間くらい前から流れてるんだけどね、この辺りで殺人事件が起こってるらしくて」

海人の事情を聞いた瞬間はAも口元が緩んだが、その時間も短くまたすぐに暗い表情へと戻ってしまった。

「1回だけじゃなくて、何回も起きてるって。しかも、殺され……ちゃった人が全員女の人なの。たまたまなのかな……」

Aは頬杖をついていた右手を引っ込めると、右隣に立つ海人を見上げた。声が震えているのが海人にもはっきりわかる。

「……俺なんかが言ってもなんの解決にもならないけど、どうかちょっとは安心してほしいんだ。Aちゃんがそんな顔してるの、見てられない」

今度は海人がしゃがんでAを見上げた。何もしてやれない自分の無力さが憎く、Aに笑いかけることしかできなかった。

Aはその笑顔を一心に見つめたあと、

「ありがとう」

とだけ実にか細い声で返した。

HRのチャイムが鳴る。

またね、と言って自分の席に戻る海人の背中が、その時のAには何か大切なものが遠く離れていってしまうような気がしてならなかった。

海人を引き止めようとして何か言おうと迷って口が半開きになっていると、着席した海人と目が合って先程と同じように笑顔を見せてくれたので、Aの不安は少し小さくなった。