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「伊野尾！！」
病院を出てすぐ怒鳴るような声が聞こえて、
つい立ち止まってしまう。
振り返ると雨に濡れた白衣を着た薮がいた。
ここまで追いかけてきたのか、
と俺は泣きそうな顔のまま笑う。
きっと変な笑い方なんだろう。
薮が悲痛な顔をして、俺を見た。
「……薮、あれは、間違いじゃ、ないんだよね」
「…うん。この一週間、大ちゃんは昨日のことを忘れて、たった今事故から目覚めたものだと、そう認識してた」
「……どうにも、ならないの」
「………ごめん」
「や、ぶ、ねぇ、無理なの、薮、医者になったんでしょ、ねぇ…！」
「っ…」
ひどい八つ当たりだ。
分かってる。
薮も同じように苦しんでいるというのに、
俺だけ被害者ぶって薮を責めたてている。
ちくしょう、と俺は呟いて髪の毛を掴んだ。
どうにも出来ないもどかしい気持ちが
暴れまわって吐き気がした。
喉の奥がじんじん熱い。
「大ちゃんは、本当に忘れるの？覚えていられないの？」
「……うん、昨日のすべてを。大ちゃんの記憶は、一日しか保たない」
「……っ」
もう、何も聞きたくない。
俺は今度こそ、後ろを振り返らずに走った。
薮の声はもう聞こえない。
雨の音にかき消されたのかもしれないけど、
どうでもよかった。
無我夢中で、我を忘れて、ただ走る。
どこまで走っているのか、
どれだけ走っているのか、
何一つ分からないまま。
忘れてしまいたいのに、
頭の中に張り付いて離れない事実が
ひたすら俺を苦しめる。
喉を絞めるように、
毒を注ぐように、
じくじくと俺を殺しにかかっているようで、
ただ、逃げたかった。
逃げ出せる場所なんてないのに。
雨の中、
強い雫が俺の身体を打ちつけて体温を奪っていく。
雨を生み出す曇天の空の下、
ずっと前に大ちゃんと来たことがある
公園のベンチに座って、
呆然と地面を見つめていた。
信じたくなかった。
大ちゃんの記憶が
たった一日でリセットされてしまうことを。
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べーちゃん(プロフ) - 切ない話だったけどとても素敵でした泣 いのちゃんが強いな、すごいなと思いました。そして大ちゃんが可愛かったです。ハッピーエンドって言えるかどうかわからないけど、終わりが好きでした。 (2017年10月17日 7時) (
レス) id: 0bf64f6267 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - keiさん» コメントありがとうございます！始まったときから読んでいるとは…ありがとうございます！と同時に更新遅くて申し訳ない気持ちでいっぱいです(；；)そんな中最後まで着いてきて頂き、さらに何回も読んでくださるとは本当に嬉しいです…！次回作も頑張ります(´ヮ｀*) (2016年12月20日 21時) (レス) id: 2cfd20ff13 (このIDを非表示/違反報告)
kei(プロフ) - 初めまして。完結おめでとうございます！小説が始まったときからこっそり読ませて頂いてました。本当に素敵なお話で感動して、ホントに完結しちゃったって感じで通知欄に更新がないのが寂しいです…。でもこれからも何回も読ませて頂きます！これからも頑張って下さい！ (2016年12月20日 19時) (レス) id: adb857be1d (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - ひまわりさん» コメントありがとうございます。号泣とは…！嬉しいです；＿；たまに文章変かな？と思うときがあるのですがちゃんと伝わっているみたいで安心しました(笑)次の作品も今書いている途中なので気長に待って頂けると幸いです(*＾-＾*) (2016年12月20日 6時) (レス) id: 2cfd20ff13 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - 乙音さん» コメントありがとうございます。なかなか更新出来なかったのですが、最後まで読んで頂き本当にありがとうございます；＿；次の作品も素敵なものが出来るように頑張ります！ (2016年12月20日 6時) (レス) id: 2cfd20ff13 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ま つ り。
| 作成日時：2016年9月6日 19時
