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「なぁ、伊野尾。卒業してもこの家にいない？」
向かい合わせに横になりながら、そんな話を切り出す。
伊野尾は、一瞬何かを言いかけたけどすぐに口を噤んだ。
そしてフルフルと首を横に振った。
「…卒業したら出て行きます」
「なんで、」
「なんでって、今の待遇ですら申し訳ないと思っているのに、卒業してからも厄介になるなんて考えられません」
「厄介じゃないし！俺がいて欲しいの！伊野尾が出ていくとか…嫌だ」
「その内、俺の存在が迷惑になる時が来ます…」
「絶対来ない！」
「それでも、ダメです…社長なのに、スキャンダルみたいなネタをわざわざ用意してどうするんですか！」
伊野尾は俺の頬を撫でながら、諭すようにそう言った。
だけど、それで納得いくはずがない。
「……」
「またそれですか」
「伊野尾、留年しよ…」
「嫌です。単位もほとんど取れてるので…卒業はします」
優秀な伊野尾が万が一にでも、留年の可能性はなかった。
そんなこと分かっていただけに、余計に不貞腐れる。
伊野尾の肩にグリグリと頭を擦りつけながら、
無言の抗議をすると、その頭をポンポンっと撫でてくれた。
「薮さんは俺よりももっと広い世界をたくさん知ってるでしょう…？」
「…伊野尾？」
「俺だけじゃないはずです、この世にこうして薮さんがしょぼんとした時に頭を撫でたり、コーヒーを淹れることが出来る人は…きっと、たくさんいます」
だからそれは、俺でなくてもいい。
そう言われた気がした。
伊野尾の声はどこか落ち着いていて、
だけど聞いていて切なくなるような声だった。
「ねぇ、伊野尾…俺は伊野尾がいいよ」
「いつか、薮さんに素敵な人が現れることを…俺は祈ってます」
それ以上聞きたくなくて、伊野尾をギュッと抱きしめる。
胸元に顔を埋めた伊野尾は、一瞬だけ俺に擦り寄る。
そのまま、何も会話することなく、俺たちは眠りについた。
俺が眠りにつく間際に、唇に何かが触れた気がした。
あれは、夢だったんだろうか…
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たべっこ(プロフ) - 可愛らしいお話にキュンとしてます。続き楽しみにしながら更新を再開を気長に待ってます。 (2018年8月2日 9時) (
レス) id: 330ed6c9f4 (このIDを非表示/違反報告)
槿(プロフ) - 面白くて続きが気になります!更新頑張ってください! (2018年1月18日 23時) (レス) id: dcd6098eeb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ま つ り。
| 作成日時：2017年12月5日 20時
