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ついに奥さんははらはらと泣き出した。
涙は女の最大の武器と言うけれど、
まさにその通り。
俺のなけなしの良心は涙の礫で蜂の巣状態。
ボロボロだ。
どうしよう。
何か、何か言わなきゃ。
何か、何か。
そうして俺は無意識のうちに彼女に言葉を発していた。
「……伊野ちゃんは、浮気なんてしてませんよ」
奥さんが勢いよく顔を上げて俺を見る。
絶望の中に希望を見出した、そんな表情だ。
「伊野ちゃん、本当に俺と会ってるんです。
俺の家で飲むことが多いので、だからタバコの匂いがしないんですよ。
飲み会って言ったのは、多分毎回俺と会ってるって言うの気が引けたんじゃないんですかね。
後輩しか飲む相手がいないみたいで。
…伊野ちゃん、仕事のことで悩んでて、その愚痴を聞いてました。
奥さんに心配かけたくない、カッコ悪いところ見せたくないって言ってましたよ」
よくもまぁぺらぺらと。
俺の顔はピクリとも動かずに偽りを口にする。
「それに子どものことだって……仕事が落ち着かないうちはまだ作りたくないって言ってたんです。
もしかしたら転職もするかもしれないしって。だから、心配することないと思いますけど」
「本当に……?」
「はい」
言い終わると奥さんは肩の力を抜いて、
少し穏やかな顔を見せた。
幾分か落ち着いたようだ。
ハンカチで目元を押さえて、
コーヒーを一口含んだ後、
おずおずと申し訳なさそうに謝罪された。
「あの、本当にすみません……お見苦しいところをお見せして……あの、このこと、主人には……」
「もちろん言いません」
おそらく全ての疑念が消えたわけではないのだろうが、
それでも彼女は伊野ちゃんを信じることに決めたようだ。
雰囲気が柔らかくなって、すっきりとした感じがする。
「伊野ちゃん、幸せですね。こんなに想ってくれる人が奥さんなんて」
どの口が言うんだか。
だって本当のことなんか言えないじゃないか。
今晩、ご主人は愛人の元に行きますよ。
今日は金曜日ですから。
……なんて。
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まつり(プロフ) - こなにゃさん» お久しぶりです…!占ツクでもありがとうございます!やっと完結することが出来ました。お互いこれからも頑張りましょうね!(^ ^) (2017年10月27日 19時) (レス) id: 28c1963f62 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - tonkoさん» 2度も感想コメありがとうございます!(^O^)/また素敵なお話が書けるよう頑張ります…! (2017年10月27日 19時) (レス) id: 28c1963f62 (このIDを非表示/違反報告)
こなにゃ(プロフ) - フォローさせていただいています、こなにゃです!完結おめでとうございます。涙なしでは読めないinarの作品でした。私の語彙では表現しきれないほど素晴らしい作品をありがとうございました!(^^*) (2017年10月27日 18時) (レス) id: 880390ae13 (このIDを非表示/違反報告)
tonko(プロフ) - 完結おめでとうございます!切ないけど素敵なお話ですね。まつり様の書かれる小説大好きです。ありがとうございます(*´ー`*) (2017年10月26日 20時) (レス) id: 98d4a60636 (このIDを非表示/違反報告)
ともか(プロフ) - まつりさん» いえいえ!!いのあり大好きなので、いつも楽しく拝見させていただいてます!! (2017年9月27日 7時) (レス) id: afd49e2f58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ま つ り。 | 作成日時:2017年9月15日 13時