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白い、パイロットの制服を着た伊野ちゃんが、
俺の方に歩いてくる。
伊野ちゃんの手にもバラの花が一輪あった。
沢山の人に渡された花なのに、
伊野ちゃんが持っているだけで、こうも違う胸の反応に、
心の中で少し自分に呆れた。
「大ちゃん」
伴奏の曲が、クライマックスの流れに運び、
静かな情熱の音になる。
伊野ちゃんは花を俺に渡すと、その場で膝をついて、
胸ポケットから小さな箱を出した。
子供でもよく分かる、意味のある箱だ。
俺の困惑は一気に晴れて、
今度はその事実を疑うほどの光景に溺れた。
「大ちゃん、待ち合わせに遅れてごめんね。でもどうしても、伝えたいことがあって、それで少し心の準備が欲しかった」
伊野ちゃんの耳が赤い。
緊張しているのが分かる。
小さな箱をそっと開くと、
中には琥珀色の宝石の輝く指輪が入っていて、
それが伊野ちゃんの震えで僅かに揺れてきらきらと光を反射させた。
俺はもう言葉にならなくて、花束を膝に置いたまま、
いくつかの花が落ちるのも気付かずに、
震える息を両手で押さえて泣いていた。
その俺の左手をとって、
そっと左手の薬指に指輪をはめた。
傷のついた、俺の醜い左手の薬指に、
オレンジ色の指輪がはめられていく。
その隣の指には、前に伊野ちゃんから貰った指輪があって、
青とオレンジの指輪が同じ手の上でキラキラ光る。
「大貴、俺と結婚してください」
空港で、
こんなに沢山の人の前で、告白をして。
伊野ちゃん、君という人は。
ボロボロ泣きながら、
声にならない声で叫んだ。
「大好きだよ、伊野ちゃん」
思い切り伊野ちゃんに抱きつく。
わさわさと、膝の上の沢山のバラの花が
伊野ちゃんの膝に落ちて、床にも散った。
結婚する、伊野ちゃんと、
と伊野ちゃんの肩口に顔を埋めてしゃくり上げながら言うと、
伊野ちゃんは笑いながら俺の背中に手を回した。
周囲はわああああ、と声を上げて、
切り替わったピアノの音と一緒に歌いだした。
ヒューヒューと、鳴る口笛の音はからかいではなく本物で、
俺は嬉しくて涙が止まらない。
息を吐けば、息が震えた。
伊野ちゃんは俺を抱き上げてくるくる回った後、
抱っこされて目線が上になっている俺と目を合わせて、口付けた。
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ま つ り。(プロフ) - 桜夜兎。さん» ありがとうございます。素敵なお言葉もありがとうございます嬉しいです( >_< )いつもお話見させてもらってます…!まさか感想を貰えるとは…!お互い頑張りましょうね^^* (2018年2月12日 20時) (レス) id: 28c1963f62 (このIDを非表示/違反報告)
桜夜兎。(プロフ) - 前作から拝見させていただきました。とても切ないお話で、私的には大学1年生の時の喧嘩と今の自分を比べる大ちゃんがとても好きでした。続編も合わせ、大号泣してしまいました(笑)これからも執筆活動頑張ってください(*^^*) (2018年2月12日 13時) (レス) id: 13ee6b4345 (このIDを非表示/違反報告)
べーちゃん(プロフ) - とても素敵な物語でした泣 本編と同じように昔の思い出も出てきて面白かったし、空港のシーン、いのちゃんが考えてくれたことは素晴らしかったです。感動しました泣 (2017年10月24日 15時) (レス) id: 0bf64f6267 (このIDを非表示/違反報告)
まつり(プロフ) - ひまわりたんぽぽ@さん» 感想ありがとうございます。本編ではあまりいちゃこらさせられなかったので、今回することができたので満足しています。まだまだな私ですが今後の作品もよろしくお願い致します…! (2017年8月29日 21時) (レス) id: 28c1963f62 (このIDを非表示/違反報告)
ひまわりたんぽぽ@(プロフ) - 完結おめでとうございます。本編での2人の深い愛情と少しの狂気、続編では一転して甘々な2人。まつりさんの文才が羨ましいです。 (2017年8月29日 20時) (レス) id: 23baff6c1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ま つ り。 | 作成日時:2017年8月10日 21時