淡雪が溶ける頃3【HQ】/稲荷崎

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3セット目まで続いた死闘は


28-26で烏野の勝利に終わった



「おいおい…、これほんまに県代表戦なんか…？
宮城、バケモンばっかやなぁ」


隣で舌を巻くお父さんに

『烏野はインターハイで青城に負けてるよ』

「あぁ、言うてたな…」


『それで、白鳥沢は

青城に1セットも取られたことない、絶対王者』


「……」




及川さんは泣かなかった


試合が終わったあの瞬間



誰より泣きたかったであろう、彼だけが
泣いていなかった


(いや、違うな…)



泣けなかったんだ





お父さんには先に帰ってもらい、私は約束している若利くんの元を目指す


「荷物積んでくれる？
まだ来てないやつら呼んでくるから」


いつもと変わらない爽やかな主将の顔で


後輩に指示を通し


『及川さん』


私の声に振り向いた彼は


普段見せることの無い、憎悪むき出しの顔をしていた


『今1番見たくない奴って顔してますね』


「半分正解。1番は別にいるよ」



好きだ、好きだと言いながら
彼の言葉が純粋な好意でないことくらいずっと分かっていた


『肘、見せてください』


「はぁ？」


『擦りむいてますよね』


「……」

ラストの攻防合戦で

機材の方まで突っ込んだ及川さん


「はーあ、最悪だよ

あんなかっこ悪い所ばっか見られちゃ、もうカッコつけようがないし

飛雄には負けるし
Aちゃんには全部バレてるし」


『カッコよかったですよ』



「…は？」


『最後のロングセットアップ

阿吽の呼吸は昔からでしたけど、あのトスをあげる及川さんも

応える岩泉さんもカッコよかったです』


鳥肌止まりませんでした、と伝えると


及川さんはポカンとした表情でされるがままに大人しくしてくれているので


その間にジャージをまくる

水のペットボトルで濡らしたハンカチで軽く傷口を拭いて


(絆創膏これしかないけどいっか)


ジャージで隠れるからいいだろう、と
双子が喧嘩をしたら罰として貼り付ける為のピンクのキャラクター絆創膏を貼る


『打撲っぽいですけど、ビリビリしたり響くような神経症状とかないですか？

一応、トレーナーさんとか病院で診てもらってくださいね』




「…なんで？」


『今はアドレナリンが出ていて痛みを感じていないだけかもしれないので

後から違和感あったら診てもらうべきです』


「じゃなくて、！

他校じゃん、

それに俺、今日で引退なんだよ」


『今は他校でも、他人じゃありません

それに、及川さんバレー続けるでしょう？』

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