淡雪が溶ける頃3【HQ】/稲荷崎

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『治、ケータイ鳴ってるけどいいの？』

「どーせツムやろ」

花火の最中、ケータイの電源を切った治は

「角名に後で合流するって連絡入れといたから」

『ありがと、』


「ベビーカステラもあんで」

なんか欲しいもんある？と袋をあけて見せてくれる


『ラムネ、』

「これ？飲みかけやけど…」

『ラムネのビー玉欲しい』

昨年治がくれたビー玉は
ガラスの陶器にいれてとってある


「ん。ええよ」

夜になってもまだ湿った暑さを残す夏の夜


花火が終わって静まった縁日のはずれで


カランと音を立てて治がラムネを飲み干す


「洗ってくる」

立ち上がろうとした治の腕を引いて


『私も、いく…』


治は少し驚いた顔をしたけど

「後でみんな合流してからでええか」

ともう一度隣に腰を下ろした


『治、ごめんね』

「何が？」

『はぐれちゃって、花火見れなかったし』

「見れたやん」

気にしすぎって笑う治は



みんなと合流したあと


「サム！なんっども電話したのにでーへんとかお前…っ」

「A、下駄で早く歩かれへんねんからペース考えーやアホツム」

「なっ」


「俺も気づけなくてごめん」
「ほんま気ぃきかんくて…」

『みんなのせいじゃないから！
私こそごめん』


私がみんなに囲まれている間に、すっと輪をぬけた




バツが悪そうにチラチラとこちらを見ていた侑は

「あの、ごめん。俺が突っ走ってもうたから」

しょんぼり眉をさげる



『侑が浴衣見たいって言ったんでしょ？』

「…おん、ごめ…」

『なのに褒めてくれないの？』


顔を上げた侑は

目を逸らしながら

「ぁー、うん。似合うてる…。と思いマス」

『ふふ』

「なに笑うてんねん」

『ううん。ありがと』



「Aちゃん、」

『ん？』

「次の…花火は、一緒に見ような」

『うん！来年もみんなで来よう
約束だよ』

「おー」

小指を絡めて、指切りをする




「治どこいってたん」

「ごみ捨ててきてん」

「の割には持ち物増えてない？」

「貰った」


ほくほくと嬉しそうに戦利品を抱える治は

「ほい」

とビー玉を私の手に落として

「Aも飲んだらええやん」

とラムネをくれた


・

・

・


インターハイ本戦が近付いてからは部内に緊張した空気が流れる

いつも明るいみんなだから
スイッチが切り替わるような、この瞬間が士気が高まるようで私は好きだ


そして北さん達最後の夏

「優勝以外は全部負けや
頂きの景色、みるで」


稲荷崎は順調なスタートを切った

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