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ページ46

「おはようさん」

『おはようございます』


澄んだ空気と凛とした声


北さんのルーティーンは、主将になっても変わることなく



朝、誰よりも早くきて

磨かれるボールと入念なストレッチ

試合前のトイレ掃除

欠かさない挨拶


そして、バレーボール


「朝は冷えるな」

『そうですね』

時々言葉を交わす2人の時間


『でも私、冬の朝結構好きなんです』

北さんは少し顔をあげると


『空気が澄んでる感じとか』

「せやな。なんか分かるわ」


と頷いた

「春の訪れに気づけんのは、冬の厳しさがあるからやしな」


推薦の新入生がチラホラと練習に顔を出し始めて


「南たちももう2年生やな」

『1年あっという間でした』

「濃い1年やったやろ」

北さんはくっくと笑う


最初こそ、驚いたものの
北さんは思っていたよりもよく笑う人だった

ちゃんとしているけど

冗談だって言うし


ちゃんと感情があって、ちゃんと泣ける人だった


『すごく濃くて、楽しい1年でした』

「そらええな」


新チーム始動にあたり、発表された主将は

北さんだった


北さんはレギュラーではなかったけれど、

部活や私生活まで“ちゃんと”している彼に
不足があると思う人はおらず

あの宮んずですら、彼には逆らえずにケンカをやめる


むしろ、この人以外には務まらないとまで言えるだろう


【ミスター隙なし】


そんな異名を持つ北さんの涙を見たのは

初めての事で


「1番、北!」

「はい」

立ち上がって、1番のユニフォームを受け取った北さんは黙って元の場所に戻りながら

泣いていた

声もあげず、ただ静かに
大粒の涙を零し続けていた


「「!?」」
「…北さんってもっと機械みたいな人かと思ってた」
「うん、」


メンバーに入れなくても
サボることなく、腐ることなく

反復、丁寧、継続を続け


「神さんはどこにでもおるってばあちゃんは言うとったけど、俺はどっちでもええと思うようになってん


別に、神さんのためにやっとる訳やないしな」

そういった北さんを

“ちゃんと”見ている人がいた

結果は副産物に過ぎなくても

それでも、彼の毎日が【結果】として結ばれた


北さんの涙に、思わず私の目からも涙が溢れて

(バカか!なんで私が泣いてるんだ)


慌ててバインダーで隠した

綺麗事じゃなく

ただ、心から



嬉しかった



“期待はずれなこと言うようやけど

北先輩って多分、1回も試合出たことないと思う…
なんならユニフォームすら貰ってたか曖昧”

・→←【バレンタインの稲荷たち】



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作者名:りな∞ | 作成日時:2023年11月6日 1時

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